投稿日: 2019/11/27 5:28:45
10月19日付日経新聞夕刊が「北海道大で教授を務める40代の日本人男性が9月に北京を訪問した際に、中国当局に拘束されたことが18日、わかった」と報じた。菅官房長官は2日後の記者会見で、拘束の事実を認め、「事柄の性質上、詳細は控える」とだけ語り、一方の当事者、中国外務省の華報道局長は「中国の法を犯した疑いのある外国人の処理を進める」と述べたが、「具体的な状況は把握していない」と概要を明らかにしなかった。
何が起こっているのか。メディアによると、男性は中国近現代史などを専門とする北海道大の教授で、過去に外務省や防衛省防衛研究所に勤務歴がある。準公務員である国立大の教員が拘束されたのは初めてだが、「反スパイ法などに問われている可能性がある」と推測している。しかしその後、同教授は中国政府系の中国社会科学院の招きで北京を訪れ、学術交流などに参加していたという事実が判明、日中関係者の間に衝撃が走った。
しかも拘束されたのは「約2週間滞在した後、帰国の際に北京首都空港で当局に拘束された」(朝日新聞)という。スパイ行為として頭に浮かぶのは“軍事禁区”付近をうろついたり、写真撮影などの行動や極秘文書の閲覧、コピーなどだが、同教授は社会科学院が手配した北京市内のホテルに滞在、独自行動をしていたわけではない。しかも帰国間際の拘束だとすると、現行犯だったわけでもなさそうだ。ネット世界では「北大教授をダマして拘束。中国共産党の卑怯極まる人質外交」なる言説も飛び交っている。謎だらけだ。
近代民主国家では「勾留理由開示請求権」が人権として保障されているが、拘留から2カ月近く経つ現在も拘置理由、罪名、被疑事実などの概要が明らかにされず、身柄拘束だけが続く事態は異常である。こうした事態を受けて、日本の中国研究者たちでつくる「新しい日中関係を考える研究者の会」が10月29日、「『日本人研究者の拘束』を憂慮し、関連情報の開示を求めます」と題する声明を公表、「理由が不明なままの拘束は国際社会では到底受け入れられません」と厳しく指弾した。当然のことだ。
現代中国政治の研究者である高原明生東大教授がこの憂慮を朝日新聞「私の視点」欄(11月1日)で次のように指摘している。
「歴史研究者が研究活動をしたことで拘留され、人身の自由を長期にわたって奪われるようであれば、友好的な交流などできなくなってしまう。日本の学界の動揺は大きい」、「中国政府の研究所が招待した研究者を拘束し、一切の関連情報を開示しないとはどういうことか。このままでは中国は怖い国だというイメージが日本で急速に強まっていく。中国訪問を中止したり、日中交流を再検討したりする動きが少なからず広がっている」
中国政府は2014年の反スパイ法制定以降、日本人だけでも13人が拘束され、そのうち9人が起訴されている。諸外国の人々にも同様の事態が起こっており、国内にあってはウイグル族、チベット族などの少数民族への強制再教育が伝えられている。習近平国家主席はことあるごとに「中華民族の偉大な復興」、「中国の特色ある社会主義の道」を提唱するが、その内実がこのような人権抑圧によって支えられているとしたら、国際社会からの信頼も、尊敬も得られないことを知るべきだ。
(運営委員 平田芳年)