投稿日: 2019/06/24 5:14:16
5月の米中通商協議が決裂、トランプ政権は2000億ドル(約22兆2000億円)相当の中国からの輸入品に対する関税率を現行の10%から25%に引き上げ、さらにスマートフォンなど消費財を多く含む約3000億ドル分を制裁関税の対象とする「第4弾」の措置を発表した。これが実施されると中国の対米輸出のほぼ全額が制裁関税対象となる。これに対し、中国政府も6月1日から米国からの輸入品600億㌦相当に最大25%まで関税を引き上げる報復措置を発動。昨年7月から本格化した米中貿易戦争は多くの経済専門家が予測した以上に対立が先鋭化、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)製品の米国内の禁輸措置へと拡大している。
米中貿易戦争―「新長征」に向かう中国 米中貿易戦争の核心は何か。トランプ大統領の常套句「アメリカ・ファースト」、「ディール(取引)」から米側の狙いは巨額の対中赤字の削減がまず頭に浮かびがちだが、進行する事態はトランプ政権の中枢を担うペンス副大統領、ポンペオ国務長官ら「力による覇権主義」派の存在が大きな要素を占め始めている。彼らが問題視するのは中国政府が国家威信をかけて取り組む先端技術、IT産業、知的財産、軍事力などを巡る覇権的競争の成否であり、それが将来の米国の安全保障を大きく左右するとの認識だ。
トランプ政権発足から1年後の17年12月、米国が世界における優位性を取り戻すための「新国家安全保障戦略」が発表された。その中で「米国は21世紀の地政学的な競争を勝ち抜くため、研究、技術および革新の分野で先頭に立たなければならない。われわれは、米国の知的財産を盗用し自由な社会の技術を不当に利用する者から、自国の安全保障の基盤技術を守る」と明記、中国を「戦略的競争国」と規定し、これまでの中国との協調・関与路線から対抗・競争路線へと転換した。
こうした背景を考えると、5月の米中協議決裂の主因は中国の対米黒字削減策や米国製品の輸入拡大策などが不十分という点にあったわけではなく、中国市場に進出した外国企業に対する技術の強制移転禁止や国家情報活動への協力を義務づけた国家情報法の見直し、知的財産窃取などの侵害、国有企業テコ入れのための補助金政策の廃止などの構造改革を求める米国と内政干渉としてそれを拒否する習政権の対立がその根底にある。まさに事態は「中国式の国家資本主義型権威主義モデルと米国式の市場経済型民主主義モデルとの『体制間競争』」(森聡法政大教授)との見方が広がっている。
いま中国社会では「持久戦論」、「長征」、「自力更生」という言葉が飛び交っているという。中国国営テレビは習近平国家主席が5月20日に江西省にある長征出発地記念公園を視察した動画を放映、歓声を上げる聴衆に対し「今は新長征であり、われわれは最初からやり直す必要がある」と述べたと伝えている。6月末のG20大阪サミットでトランプ-習会談が行われ、なんらかの妥協が成立するのでは、との期待が一部で語られているが、甘い見通しと言わざるを得ない。
(運営委員 平田芳年)