投稿日: 2019/01/16 11:30:47
2019の新年=亥年(い)年が明けました。私たちは変動著しい政治・経済・社会情勢をウオッチし多様な言論を発信し続けます。NPOは一昨年「認定NPO」(寄付者の税額控除を可とする)を取得し、また季刊『現代の理論』の書店販売を復活しました(同時代社発売)。今年も皆さまの一層のご支援とご協力をお願いいたします。
言論活動にとってのビッグニュースの一つに、内戦下のシリアの取材中に拘束され昨年10月に3年4カ月ぶりに解放されたフリージャーナリストの安田純平さんのトルコ経由での帰国がある。安田氏は成田空港到着時に「折を見て可能な限りの説明をする責任があると思います」と語ったが、11月2日、日本記者クラブで会見を開き、「私自身の行動によって、日本政府が当事者になってしまった点について、大変申し訳ないと思っています」と深く頭を下げた(朝日18.11.2夕刊)。その後、安田さんは多くの媒体のインタビューに応じて自分の拘束から解放の過程、「大変申し訳ない」と謝った意味などについて語った(例をあげれば、『AERA』18.11.26、『Journalism』18・12、『世界』19.1(野中章弘・アジアプレス・インターナショナル代表との対談)、文芸春秋19.1(独占手記・シリア1218日幽閉記)など)。なぜ「大変申し訳ない」と謝ったのか?
安田氏は「国家に対するというぼんやりとした話ではなく、担当した人に頭を下げるのは礼儀だと思ったからです」と答えたが、礼儀ならばむしろ「感謝」のみを述べることで十分だったと私は思う。この「謝罪」には海外からも異論が出された。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は11月6日、東アジアオフィス担当役員名で「命のリスクを負ってシリアの悲劇について同胞に伝えようとしていた安田純平氏が謝罪を強いられたことは受け入れられない。安田氏は困難を耐えたことに対して英雄として歓迎されるべきだ」と異例の声明を出した(『AERA』)。実は背景には、ネット上で「勝手に戦場に行ったのだから自己責任」の言葉や「テロ組織と仲良し」「身代金詐欺」などのフェイク情報、「プロ人質」などの揶揄が飛び交い、安田氏は心を痛め、家族や近所の人々に迷惑をかけまいと知人宅を転々としていた(『AERA』)という現代日本社会特有の情報環境がある。
2004年にイラク・ファルージャでの日本人NGOメンバー5名の拘束・拉致事件があり、グローバルウォッチやワールド・ピースナウなどのNGO=非政府ネットワークの説得活動によって全員解放されたが、このとき小泉首相(当時)や読売新聞、屋山太郎・村田晃司など(国は個人に救出費用負担を請求しろ、と言う)の論者による「自己責任」論が噴出した。安田氏は今回は「抑えた論調になった」と言う(『AERA』が、そもそも外務省設置法には海外で危難に陥った邦人の救護義務の定めがあり国の指示に反して取材や人道活動のため現地に入り危難に遭遇した邦人は見捨ててよいという例外はない。どうも「自己責任」論には、政府の政策決定を支持するWeのみが庇護されるが政府の指示に従わないTheyには庇護義務を負わなくてよい、とする基本思想があるのではないか。私は安田氏の次のジャーナリズム論に賛成だ。「民主主義の社会において国民が政府の行っていること、世の中がどうなっているかということを自己判断するためには、政府によるものでない情報が必要です。そのためには政府の影響下にない形で情報を取り、それを提供する人が必要であるということは大原則です」(『Journalism』)(理事長・運営委員 古川純)