投稿日: 2018/12/18 7:59:18
安倍晋三首相は11月14日プーチン大統領との会談後、1956年の日ソ共同宣言を基礎にした交渉を始めることで「合意」したと語った。G20に参加した両首脳はブエノスアイレスで会談し、「日ロ平和条約締結交渉の加速化に向け、河野太郎、ラブロフ両外相を交渉責任者とする高官協議の新設を決め、外相会談を来年1月の首相訪ロの前に行う方向で調整に入った」と報道された。日ロ交渉が政治焦点として急浮上した。今回の日ロ交渉合意には3つの特徴がある。
第一に、1956年日ソ共同宣言を基礎に交渉を始めるとした点。この合意は二島返還を軸にする意思を両首脳が確認し、交渉を開始したということだ(日本政府は四島返還論から転換)。
第二に、3年以内に平和条約を締結すると期限を区切った交渉である点。
「安倍政権がプーチン氏の誘い水に乗ってまで領土問題にこだわっているのは、平和条約を結びたいと考えているからです」「ロシアと平和条約を結ぶ意味は何なのかを今考えるべきときだと思います。北方領土を大きく失ってまで条約を結ぶことに果たしてどういう国益があるのか、です」(朝日・耕論:岩下明裕)。
今回の日ロ交渉がうまく進展するかどうかは分からない。私は、日ロ関係は領土問題+経済交流+平和条約という全体構造を持っており平和条約+経済交流+領土問題と(序列の)発想転換させて検討されるべきと思っており、二島返還論に賛成だ(ここでは議論しない)。今回私が注目しているのは、第三の点、安倍首相はプーチン大統領に対し二島が引き渡されても島に米軍基地を置くことはないとの考えを直接伝えたと報道(11・16朝日)されている点である。
米国が日本のどこにでも基地を置くことを求められる日米安保条約は長く、北方領土交渉の「トゲ」だった。ダレスの恫喝といわれる事態だ。別の表現をすれば、冷戦時代の日米同盟基軸論(保守本流)こそが日ロ交渉を塩漬けした根拠である。外務省幹部は日米安保条約や地位協定で「米軍はどこにでも基地を置くことを求められるが、日本が同意するかどうかは別だ」と解釈し、安倍首相を支えた。安倍発言は日米安保と日米地位協定の在り方を大きく転換する可能性を持っている。安倍首相は日ロ問題を通じて、対米関係への、相対的とはいえ、国家としての独自の意思を自立的に表明するチャンスととらえているのかもしれない。注目すべき点である。
考えてみると、安倍首相の思惑が潜在敵国中国と対峙するうえでの日ロ平和条約・対ロ関係の改善にあるとはいえ、日ロ平和条約は私たちにとっても重要だ。来年朝鮮半島で停戦から終戦への流れが明確になれば、東アジアの冷戦瓦解と平和への流れが広がる。この流れと日ロ平和条約の流れが重なるとき、あまりない歴史の瞬間を経験できるかもしれない。甘い幻想かもしれないが、日ロ平和条約へ、日本の市民勢力は真剣に検討すべきではないかと思う。(運営委員 山田勝)