投稿日: 2018/09/25 10:24:35
今年は年頭から、「災害列島」なる造語が現実味を帯びるような災害の連続だった。1月23日の草津白根山噴火では雪中訓練中の自衛官が死亡したが、1~2月は北陸と東北西部が数十年ぶりの豪雪に見舞われ、除雪作業中の事故や積雪による家屋の倒壊で死者やけが人が出た。さらに5月にはマグニチュード5.2の長野県北部地震が発生、6月12日にはマグニチュード6.1の大阪北部地震によるブロック塀の倒壊などで5人が死亡し、7月には記録的な集中豪雨が西日本各地で200人以上の死者が出る甚大な被害をもたらした。
最近も台風13号が関東、北海道に豪雨と水害をもたらしたのにつづいて、8月24日に大阪湾を直撃した台風21号は、関西空港を高潮による浸水で半月もの閉鎖に追い込み、北海道にも暴風雨の被害をもたらした。そして9月6日未明、最大震度7を記録する北海道胆振中部地震が、巨大な地滑りや家屋倒壊という被害の追い打ちをかけた。
まず何よりも、こうした一連の災害で被災した方々にお見舞いを申し上げるとともに、犠牲になられた方々のご冥福をお祈りしたいと思う。
だが同時に、こうした災害の復旧作業に多くのボランティアが参加する状況がすっかり定着したという現実もある。ところでボランティアという「相互扶助行為」、少し言い方を変えると「仲間を助ける」という行為は、わたしたちホモ・サピエンスと他の動物を峻別する、いや!他の人類亜種にもなかった「稀有な行為」なのだ。
サイエンス・ライターの鹿野司氏によれば、40万年前に現われてヨーロッパに広く分布したネアンデルタール人は、体格も脳の容量もわたしたちサピエンスを上回り、火を扱い、石器を作り、埋葬の習慣を持ち、洞窟壁画も描いていたが4万年前に絶滅したという。そしてこのサピエンスとネアンデルタールの命運を分けたのが、6万年ほど前に起きた「認知革命」であり、それに伴うサピエンスのアフリカ大陸からユーラシアへ、そして世界へという大移動の始まりだったというのだ。では「認知革命」とは何か?
群れを作る動物は普通「血縁」でそれを作る。ネアンデルタールは20人程度の「血縁の群れ」を超えることができなかったが、サピエンスは、目の前に存在しないものについて思いを巡らせる能力(鹿野氏は「物語を信じる力の芽生え」とも言う)を獲得することで他の「群れ」をも「仲間」として認知し、多数の群れによる相互協力を可能にして巨大なサピエンス集団を作り上げた。鹿野氏の言う「物語」とは「宗教や貨幣や株式会社や民主主義」のことで、サピエンスはそうした「物語」を信じることで「価値観を共有し」、それが血縁を超える協働を可能にしたのだという。
血縁以外の「群れ」を「仲間」と認識する「稀有な能力」が、われわれサピエンスを他の人類亜種とさえ区別して今に至らしめたとすれば、「仲間を助ける」ボランティア精神は6万年の歴史を受け継ぐ能力の発露であり、逆に排他的な差別や排外主義は、人間社会の歪みが生み出した反動的イデオロギーの産物に違いない。(運営委員 佐々木希一)