投稿日: 2018/04/28 8:00:52
東京商工リサーチが4月はじめに発表した2017年度の「コンプライアンス違反」倒産が195件となり、3年ぶりに前年度を上回ったという。法令違反や脱税、粉飾決算などを要因とした企業倒産を集計したもので、その負債総額は約1兆8000億円と前年度の16倍にも膨らんだ。欠陥エアバッグ問題で戦後最大の経営破たんとなったタカタや、マルチ商法で消費者庁から4度の業務停止命令を受けたジャパンライフなどが倒産額を押し上げたものだが、倒産には至らないまでも企業の社会的責任が問われる不祥事が東証一部に上場する大企業で続発したことも2017年度の特徴だ。
幾つかを例示すると、「東洋ゴム工業が船舶などに使う産業用ゴム製品でデータの偽装」、「大手旅行会社・てるみくらぶの粉飾決算」、「日産自動車が無資格検査」、「SUBARUの無資格検査」、「神戸製鋼所がアルミ製品の一部の性能データを改ざん」、「三菱マテリアルの子会社3社で品質データ改ざん」などが新聞紙面を賑わし、不正会計問題が尾を引く東芝の上場廃止が取り沙汰されるなど、企業社会の倫理崩壊が顕著となった年でもある。
前年度の「コンプライアンス違反」倒産で目に付くのは虚偽の決算書や不適切な会計処理などの「粉飾」が前年度より2.5倍も急増したことだ。この倒産データは企業間競争が激しさを増し、自社利益第一主義「自分ファースト」が大手を振り、「見つからなければ構わない」、「コスト減らしのためには目をつぶる」、「トップや部門長の意向を忖度する」風潮が大企業内部にも浸食している現実を教えている。
なぜこうした風潮が広がっているのか。自らが携わる仕事・職業に対する誇りや自尊心はどこへ行ったのか。人と人、人と社会を結びつけている信頼関係、「これをやってはいけない」という倫理観が共有されてこそ、他人に対して正しい商品やサービスが提供でき、それに対する対価がもらえる。誰もが倫理的でない行動をとるようになれば、相互の信頼関係が失われ、次第に正常な世の中は成り立たなくなってしまう。ことは一企業の収益という個益を超えて、人間集団の社会益の存在理由そのものが問われている。
困ったことに、これは企業社会だけのことではないようだ。過去の国会答弁で防衛大臣が「存在しない」と発言してきたイラク派遣陸自日報が1年後に出てきたり、「存在が確認できない」(文科省)とされてきた「総理のご意向」文書が再調査で発覚したり、「なくなっている」とされてきた労働時間調査に関するデータ原票が厚労省内地下倉庫から見つかったり、政治・行政の世界でも、信頼関係を大きく毀損する事例が跡を絶たない。極めつけは国民の共有財産であるはずの国有地取引を巡って、内閣総理大臣夫人が名誉校長を務める学園への格安譲渡疑惑に関係する決裁文書(公文書)を改ざんしていた事例だ。
グローバル化の進展に伴い過度な競争や消費者無視、利益第一主義の弊害が指摘され、「法令遵守」だけでなく、「倫理や社会貢献、環境保全などに配慮した行動」が企業の盛衰を左右する時代を迎えている。相互の信頼関係を失わせる行為への厳しい視線が社会に共有され始めているからだ。政治・行政の世界も例外ではない。(運営委員 平田芳年)