投稿日: 2018/03/28 11:00:33
「1945年8月6日、人類史上初めての核兵器が広島に落とされると14万人の命が失われ、街は焦土と化して全滅した。さらに、8月9日、第2の核兵器により7万人以上の長崎市民が犠牲となった。核兵器の歴史は、この残虐で非人道的な2回の原爆投下から始まった」 (『核兵器と原発』鈴木達治郎長崎大学核兵器廃絶研究センター長) それから72年-核兵器を取り巻く世界の情勢は、どのように変わろうとしているのであろうか。
3月5日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使である鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府国家安保室長と徐薫(ソ・フン)国家情報院長と会談した。翌6日、韓国側の発表によると、金委員長は朝鮮半島非核化の意思を明確にし北朝鮮への軍事的脅威が解消され体制の安全が保証されれば、核を保有する理由がない点を明確にしたとのことである。核兵器や通常兵器を韓国に向かって使用しないことも確約。また、米韓が4月から合同軍事演習を例年通りの規模で実施することを容認すると表明。その上で「わが民族同士が力を合わせて北南関係を前進させ、祖国統一の新たな歴史をつくろう」と南北融和・統一への意志を明らかにした。このことは、私たち日本にとっても、北東アジアにおける核兵器禁止区域を創る第一歩として歓迎したい。
しかしながら、日本政府、日本のマスメディアは総じて、北朝鮮が非核化の方針に転じることに懐疑的な見方が強い。小野寺防衛相は「北朝鮮は過去何度も核の放棄をちらつかせながら結果として核の開発を継続してきた」「核放棄を確約させるまでは圧力を続けるべきだ」と、対話ではなく圧力を強調している。一方のマスメディアも日本経済新聞は「朝鮮半島の緊張緩和に向けて一歩前進と見る向きもあるが、楽観は禁物だ」として、北朝鮮の譲歩に疑問を投げかける論調となっている。
それだけに、今回の会談で明らかになった“北朝鮮からのメッセージ”を、正しく正確に読み取ることが私たちに求められていると言えよう。
こうした流れをもたらした底流に何があるのか。彼らの立場に立って考えることが必要であろう。朝鮮戦争で北朝鮮は壊滅的な打撃を受け、その記憶は北朝鮮の人たちに強く残っている。1953年に停戦協定は結ばれたものの、米国と北朝鮮にはいまだ戦争状態が続いている。核問題に引き付けて言えば、核弾頭数はアメリカの6800に対し北朝鮮は20。こうした客観的事実が、日本ではあまり明らかにされず、ただ、北朝鮮の脅威のみが一方的になされているのが現状である。
北朝鮮の真意、彼らの主張はどこにあるのだろうか? 2006年10月3日、北朝鮮外務省が声明を発表、そこに北朝鮮の主張する非核化についての論理が示されている。やや長いが、今回の北朝鮮のメッセージを理解する一助として紹介してみたい。
「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島の非核化を実現し、世界的な核軍縮と最終的な核兵器の撤廃を促すために努力をつくすであろう。我々は半世紀以上もの間、米国の核の脅威にさらされてきたし、そのため朝鮮半島の非核化を真っ先に提起し、その実現に向けて最大限の努力をしてきた。しかし米国は、我々のあらゆる雅量と誠意を次々と踏みにじり、我々が掲げた非核化の理念を、朝鮮人民が選択した思想と体制を孤立させ圧殺するのに悪用した。我々の最終目標は、朝鮮半島における我々の一方的な武装解除につながる『非核化』ではなく、朝米の敵対関係を清算し、朝鮮半島とその周辺において、あらゆる核の脅威を根源的に取り除く非核化である」。
(運営委員 豊田正樹)