投稿日: 2018/02/25 7:24:41
平昌(ピョンチャン)オリンピックの華やかな宣伝のおかげで、一見「小康状態」に見えた朝鮮半島の危機が、なお強い軍事的緊張下にあることを再認識させる出来事があった。それは「戦術核兵器」の増強を含む核軍拡の推進を言明したトランプ大統領の年頭教書であり、軍事訓練の強化をうかがわせる在日米軍ヘリの相次ぐ事故である。
休戦中の朝鮮戦争が再び戦争に転じるかもしれないという朝鮮半島の危機は、昨年8月のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験を契機に米朝の「チキンレース」の様相を呈し、一時は極めて危機的状況に陥るかに見えた。とはいえ米軍の北朝鮮侵攻作戦は、湾岸戦争やイラク戦争ほど安易には始められないのも明らかであり、何よりも朝鮮戦争の当事者たる韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権が軍事行動に強く反対している以上、「戦争の危機」は、日本のマスコミが報じるほど深刻ではないという意見もうなずける。
だが問題なのは、朝鮮半島危機が醸成されるこの半年ほどの過程で、「軍事を含むあらゆる圧力の強化」という日米両政府の解決策ばかりが声高に喧伝される一方で、「交渉による解決」を求める反対派がジレンマに陥り、「核の放棄が米朝交渉の前提」という、アメリカの非実現的な主張に有効な反論をなし得ていないことだと思うのだ。
実際に「朝鮮半島の非核化」と「交渉による戦争回避」のいずれが優先課題かという、トランプ政権が日本や韓国に迫る二者択一は、「無条件の交渉」を求めれば「半島の非核化に背を向ける」と反駁され、北朝鮮の非核化宣言を交渉の前提とする限り「交渉による戦争回避」は不可能になるというジレンマを生み出してきた。だがここにはトリックがある。トランプの言う「交渉」は「北朝鮮に核を放棄させる交渉」であり、「戦争を回避する交渉」では決してないからだ。
そうであれば私たちは、朝鮮半島の緊張状態の源泉でありつづけている「休戦中の朝鮮戦争」を終結させ、戦争の危機を除いたうえで「半島非核化の交渉」を始めるように日米両国政府に要求するべきではないだろうか。まずは「朝鮮戦争の終結交渉を無条件で開始せよ」、そして米朝韓平和条約の締結の後に「朝鮮半島の非核化」の交渉を始めよと。朝鮮戦争の終結交渉は、北朝鮮を「核保有国」として認めて交渉することを意味しないだけでなく、「米軍の侵攻に備えた核開発」という名分を奪うことでもある。月刊『世界』2月号に掲載された柳澤協二元内閣官房副長官補の「米朝戦争の危機と日本の進路」は、こうした論陣のための有力な論拠を数多く示している。
もちろん、いちど核兵器を手にした国家(権力者)が、それを放棄することなどありえないとも言われるし、当然ながら「半島の非核化交渉」は困難なものになるだろう。しかしだからといって「朝鮮半島の非核交渉」を追求しないとすれば、オバマ前大統領の核廃絶の呼びかけも、国連総会で採択された「核兵器禁止条約」も、単なる絵空事に終わるしかないことになる。それは社会変革を追求し続けてきた私たちが、理想社会の実現という未来への希望を捨てることではないだろうか。
(運営委員 佐々木希一)