投稿日: 2017/11/21 11:30:46
10月上旬、神戸製鋼所がアルミニウムや銅製品の一部で強度や寸法など「検査証明書」のデータを改ざん、出荷していたことが明らかになった。製品の納入先はトヨタ自動車、国産ジェット機を開発する三菱重工業など大手から飲料缶向けなど約200社。その後、国内外向け約500社超に増えた。神戸製鋼では昨年6月にもグループ会社で、ばね用ステンレス鋼材の強度を偽装していたことが発覚している。
神戸製鋼といえば、新日鉄住金、JFEスチールに次ぐ国内3位の製鋼メーカーで創業110年超の名門企業。ラグビー部の活動で全国的に知られ、安倍首相が大学卒業後3年間サラリーマンをしていた会社で有名だ。川崎会長兼社長とは同い年で仲良しとも。
最初の改ざん発表にとどまらず、鉄粉、液晶製品向け合金、銅管・銅板、アルミ合金線、そして銅線、特殊鋼、ステンレス銅線でも明らかになっており、「不正底なし」という状態だ。神戸製鋼ではこの事実を8月末に把握し、12月に原因や対策を公表する計画だったというが、経産省から求められて調査を加速化、発表するに至った。不正は子会社を含め多くの部門で起きていたという。
神戸製鋼は、鉄鋼以外のアルミや電力など事業分野を多角化する「複合経営」で、世界規模の鉄鋼再編の中で活路を見いだそうとしていた。特にアルミは、環境規制への対応で軽量化が求められる自動車メーカーや、JRをはじめとする鉄道車両にも採用されている。改ざんでも「安全性には問題がない」とされているが、こんご交換費用の請求やリコール費用の負担を求められるケースも否定できない。米司法省の制裁金も予想される。
改ざんには多数の管理職が関与していたことが判明しており、組織ぐるみだった。10年前から常態化していた。なぜ改ざんが行われたのか。神戸製鋼は新しく設置した外部調査委員会で原因究明と再発防止策をまとめる予定で幕引きを急ぐ。
企業の現場はどうなっているのか。「品質より納期を急ぐ」、その一方で「過剰在庫は厳禁」、そこで「これくらいの不正ならいいや」ということになっていったと想像がつく。「納入先の了承をえずに、数値を契約内容にあうように改ざんして出荷する」(朝日新聞)との指摘も当たっているのだろう。製品化するまでに長い期間がかかる鉄鋼製品や金属製品・アルミ製品は、注文が増えたからといって、すぐに生産を増やすということは物理的に無理だから、注文をさばくために改ざんしてしまったのだ。勝手である。
企業間競争が激化すれば、営業職(ホワイトカラー)はひたすら注文をとるのが仕事。しかし生産現場は、そのあたりを忖度して、データを改ざんしてまで出荷。経営陣、ホワイトカラー、生産現場で忖度・なれ合いが恒常化してしまったのではないか。人手不足も関係あるのか。今日の日本の企業風土はどうなったのか、モノづくりの未来は暗い。
日産自動車やスバルの「無資格検査」など、企業の不祥事が続いている。生産現場が上層部を忖度している結果だろうか…。それとも生産現場はそれどころではないという現実があるのか。経営者も「現場に口出しすると混乱する」といった事なかれ主義があるのか。いずれにしても生産現場に余裕がなくなっているのが原因だろう。
(運営委員 寺嶋紘)