投稿日: 2017/09/20 10:09:28
北朝鮮による弾道ミサイル・核実験の連鎖と米日韓の軍事的対応の強化が軍事衝突への漠然とした不安をかき立てている。いま必要なことはいたずらに漠然とした「不安」をまき散らすのではなく、「不安」の中身を具体的に検証し、国際社会と連携しながら対話による緊張緩和をつくりだすよう努力することではないか。
8月29日、北朝鮮は今年13回目の弾道ミサイルを発射した。日本政府は発射4分後の午前6時2分にJアラート(全国瞬時警報システム)を通じ、北朝鮮からミサイルが発射されたもようだと発表、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、長野の12道県の住民を対象に、頑丈な建物や地下への避難を呼びかけた。該当地域では早朝から防災行政無線によるサイレンや放送によって警報が鳴り、新幹線や在来線などの運転を停止。連動してNHKや民放各局も「国民の保護に関する情報」の速報を画面に流し、避難を呼びかけるなど大騒動が展開された。地域によっては学校を休校にしたり、Jアラートの不備で右往左往する自治体関係者が続出、住民は「どこへ逃げればよいのか」、「70年前の空襲警報を思い出した」など、混乱と不安に拍車をかける騒動が東日本を駆けめぐった。
冷静に考えると、何故このような騒動が12道県にわたる広い地域で繰り広げられたのか、という正当な疑問が浮かぶ。Jアラートの緊急速報は「東北地方の方向にミサイル発射の模様」というもので、予測される落下時刻や到達地点、高度などの情報は一切なかったという。発射26分後に記者会見した安倍首相は「政府としてはミサイル発射直後からミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢をとってきた」と語っている。自衛隊は北朝鮮の「ノドン」に対応するため、「イージス弾道ミサイル防衛システム」と「パトリオットPAC-3システム」のミサイル迎撃システムを装備済みだ。イージスシステムでは米軍の早期警戒衛星がミサイル発射を探知、瞬時に自衛隊の迎撃システムに情報が送られ、飛来するミサイルを補足、方角、加速度、高度、到達予測を計算してSM-3ブロック2A迎撃ミサイルを発射、ノドン発射から298.5秒後に高度358kmの日本海上空・大気圏外で迎撃することになっている。「発車直後からミサイルの動きを完全に把握」していた政府が発射数秒後に日本上空への到達時間や高度、方角、通過地点、どこに落下するかを正確に予測していたのは当然だ。
しかし政府はこうした情報を隠したまま、広範囲にJアラートによる警報を拡散、あたかも日本の広範な国土にミサイルが撃ち込まれるかの「誤情報」を流し、多くの住民にかつてない恐怖感と不安を押しつける事態を生み出した。私たちは3・11東日本大震災の教訓から、正確な情報や知識を共有することで「正しく恐れる」ことの重要性を学んだはずだ。今回の政府対応は、こうした教訓を無視した上、意図的に恐怖や不安を醸成したのである。朝鮮半島の緊張激化を政権浮揚のテコにし、併せて軍備増強の口実に利用しようとする安倍政権の姑息な姿勢が見え隠れする。人々の恐怖や不安心理つけ込み、政治的意図に利用しようとする手口は厳しく糾弾されなければならない。
(運営委員 平田芳年)