『NEWS LETTER』2017年6月号:「美しい国」の「えこひいき政治」

投稿日: 2017/06/20 9:54:35

安倍首相夫人が名誉校長に座る学校法人・森本学園に、9割引という破格の値段で国有地が売却されたスキャンダルに続いて、今度は安倍首相自身の親しい友人が理事長を務める加計学園の獣医学部の認可決定プロセスについて、次々と疑惑が浮上している。

ことの始まりは、国会に提出された「官邸の最高レベルが言っている」とか「首相の意向」などと記されたメモを、菅官房長官が「怪文書」と切り捨てたことだった。直後、文科省前事務次官の前川氏が「有るものを無いとは言えない」と省内で作成されたメモであると証言、つづけて「(加計学園獣医学部新設では)行政が歪められたと感じていた」と、安倍内閣を告発する前代未聞の行動に出たからである。

すると様々な疑惑が出るは出るわ。加計学園のライバル京都産業大学に学部新設を断念させるためとしか思えない立地条件の突然の変更、ライバルが割り込めないようにしたとしか考えられない、わずか8日間という設置者の公募期間、もちろん応募は加計学園だけで、公募開始から2週間で設置者・加計学園が決定された。これだけでも、「加計学園ありき」で「行政が歪められた」状況証拠としては「真っ黒」ではないか。

さらに続編もある。加計学園を誘致した今治市の「今治加計獣医学部を考える会」の黒川共同代表が「『首相主導』は文書にもなっている」と証言、今治市の企画財務部が作成した「国家戦略特区の制度を活用した取組みの進捗状況」と題された文書には「『総理・内閣主導』の枠組み」なる見出しが堂々と掲げられている。そのうえ今治市は、上限96億円の建設費補助金の支出と土地開発公社などから36億7400万円で買い戻した土地を学園用地として無償譲渡する補正予算案を今年3月の定例議会に提案、市長は「首相主導なので大丈夫」と支持者や議員を抱きこんでこれを可決させ、獣医学部誘致による数億円の経済効果を盛んに喧伝した。しかし5月31日の住民説明会では、「(具体的な)経済的メリットは3000万円の事業税増収」と認めざるを得なかったのだ。

加計学園の理事長が、安倍首相とは何度もゴルフを共にしたりクリスマスイブの酒宴で同席し、安倍首相が議員になり立ての頃には月額14万円の報酬を与えて支援を惜しまなかった支持者にして友人なのだから、「政治の私物化」どころか「お友達のえこひいき政治」と言う以外にはない。その意味では、成りあがりの学校法人が首相夫人を神輿に担いで国有地を格安で払い下げてもらった森友学園スキャンダルより、さらに性質の悪いスキャンダルであるのも明らかだろう。

ところがこれだけの暴露があってなお、5月末の世論調査では安倍内閣の支持率は数ポイント下落しただけである。韓国ではつい最近、「えこひいき」に怒る市民たちのデモに朴大統領が追い詰められ、ついには国会で弾劾が決議されて憲法裁判所もこれを認め大統領が罷免される事件があったというのに、この国の有権者たちとマスメディアの何ともおとなしいことか!おかげで安倍内閣は、厚顔無恥にも「あらゆる文書の調査も確認作業もしない」とうそぶく始末だ。

恐る恐る「こんにゃく」を差し出した森友学園理事長を「無礼者!」と一喝した長老議員も、最高権力者・安倍には「恥を知れ!」と喝を入れるつもりはないようだ。かくして安倍が唱える「美しい国」は、「恥を知る」という日本文化の伝統に背いてはばからない。

(運営委員 佐々木希一)