投稿日: 2017/05/20 9:40:36
「歴史は繰り返す。 最初は悲劇として、二度目は茶番として」。これはマルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』にある有名な言葉である。ここで繰り返す歴史として取り上げるのは、人類を地獄の淵に引き込みかねない核戦争の危機である。最初は言わずと知れたキューバ危機であり、二度目が今回の北朝鮮の核開発をめぐる緊張の激化ということになる。
キューバ危機が悲劇であったかどうかは意見の分かれるところであろう。というのも最終的に核戦争は回避されたからだ。ただ、その後ケネディ大統領が凶弾に斃れ、アメリカはベトナム戦争の泥沼に踏み込んでいき、一方のフルシチョフ首相はその責を問われて解任され、ソ連は崩壊に向けて長い下り坂を歩むことになる。大きな歴史の流れからすれば両国にとってこの危機が衰退への重要な転機になったことは否定できない。
問題は現在の危機が茶番としての2度目になるかどうかであろう。茶番とまず感じる理由は、今回の危機が希代のトリックスター2人によって競演されているからである。トランプは相矛盾することを平気で言い、コロコロと立場を変え、態度を時に豹変させ、本当のところ何を考えているかが分からない。一方の金正恩は、首尾一貫して冷酷で得体のしれない独裁者として、おどろおどろしい威嚇を繰りかえしているが、情報が十分でないだけに、やはりその真意は図り難い。
この2人による軍事力の誇示や、大言壮語や意味あり気な言辞による威嚇の仕合は、鳥や魚の繁殖期に雄同士が雌を争って羽を広げたり体を膨らませたりして相手を威嚇する様に似て、それ自体どこか滑稽である。
茶番とみなすもっと本質的な点は、Xデーと見なされた北朝鮮の金日成誕生日や建軍記念日が過ぎ、韓米合同演習を終えた5月5日の時点でなお、全面戦争へとつながるような武力衝突が生じていないことである。もちろん「泰山鳴動ネズミ一匹」というにはまだ早計だろうが、双方が大騒ぎして煽ってきた一触即発の危機は遠ざかった、幻影だった、といってもいいだろう。
もっとも今回の危機がとりあえず去ったとしても、北朝鮮が核兵器を放棄し開発を断念しない限り、危機の火種は残り、問題は少しも解決されたことにはならない。ならば今後はどうするか。やはり外交を通じた粘り強い平和的交渉しかないだろう。ただ、漫然と話し合いを唱えているだけでなく、これからは、どういう状況であれば北朝鮮が核を持たずにいられるか、その必要条件を具体的目標において交渉することが不可欠である。まず米朝が停戦協定と平和条約を結び、日朝が国交を樹立し、米・中・露・日・韓・朝の6カ国が、金正恩体制の維持を含む朝鮮半島の平和と安定および非核に関する国際条約を締結し、南北が平和的統合を目指す交渉を始めることであり、さらには核保有国を含めた核兵器禁止条約と核軍縮の実行を進めることである。そのどれもが一朝一夕に実現できる課題でないのはもちろんだが、平和的に解決するつもりがあるのなら、困難であっても目標に一歩でも近づくべきであろう。
とにかく今はこの危機がこのまま茶番で終わることを切に願いたい。。
(運営委員 牧梶郎)