投稿日: 2017/05/04 4:13:10
最近、ある映画を思い出した。『陽のあたる場所』というアメリカ映画だ。モンゴメリー・クリフトが主演し、エリザベス・テイラーが共演した映画だ。クリフト演じる主人公ジョージが、テイラー演じるアンジェラという今まで見たこともない美人に目を奪われる。アンジェラもジョージの純真さに惹かれてお互い愛し合うようになる。しかしジョージは恋人だった女性を殺したとして逮捕され、否認をするも死刑になる話だ。実は2人で乗ったボートがバランスを崩して転覆、女性は溺死してしまったのだが、2人が一緒にいたという目撃証言や状況証拠により死刑の判決。ただ主人公は漠然ではあるが殺意があり、殺したも同然であることを自覚し、死刑執行に臨む。
小学生の頃、母親に連れられて観た映画だが、「なぜ主人公は罪を認めたのか」と不思議に思ったことを記憶している。その後も何度か観る機会があったが、内心や夢も罪に問われる時代が来るのかと怖くなったときもあった。
なぜ思い出したかというと「共謀罪」だ。映画は共謀の話ではない。主人公は内心に忠実で、死刑を受け止めたわけだが、内心が罪に問われるとは…。もし、でっち上げられたり、仲間が密告したりしたらどうなるのか…
共謀罪の国会審議が始まった。3月21日に、「組織的犯罪処罰法改正案」として衆議院に提出されたものだが、いくら「かつての共謀罪とは明らかに別のもの」(菅官房長官)と言っても、「話し合った」ことを罪に問うということは、実質「共謀罪」だ。近代刑法は犯罪意思(心の中で思ったこと)だけでは処罰されないのが近代刑法の大原則だ。(4ページの菅弁護士の寄稿を読んで下さい)
今回は277の罪が対象になっており、2007年に自民党自身が絞り込んだ数より多い。うちテロなどの対策とするものが110で、他にも馬券や車券の「ノミ行為」が暴力団の資金源になる可能性があるとして競馬法や自転車競技法も対象だ。収賄や脱税、文化財保護法や労働基準法もだ。著作権違反も含まれており、写真や文章をネットからダウンロードして、2次創作物を団体のビラに使って街頭で配ったら、「計画を共謀した」とみなされ、「悪心」がなくとも逮捕(別件逮捕)という事態にもなりかねない。
そして何よりも怖いのは、集会、結社、表現、良心の自由という憲法にも保障された基本的人権を脅かすということ。単なる「計画」「合意」というのは、「心の中で思ったこと」と紙一重。処罰時期を早めるということは犯罪の構成要件の明確性を失わせ、単に疑わしいとか、悪い考えを抱いているというだけで処罰することにつながる。これが内心の自由を脅かすということだ。監視社会にもつながる。
3月中旬、最高裁は、GPS捜査について「個人のプライバシーを侵害する」として違法判決を出した。しかし警察庁は即座に、「GPSを用いた捜査の在り方を検討したい」と対応した。新たな立法も視野だ。共謀罪といい、1億総監視時代に入ったといえる。
(運営委員 寺嶋紘)