『NEWS LETTER』2017年3月号:ポピュリズムにはポピュリズムで……私の異論・異見

投稿日: 2017/03/25 10:41:54

トランプ政権の誕生は世界の常識を超えた政治への幕開けであろう。予兆はあった。イギリス独立党、フランス国民戦線、ドイツ、オランダ(日本の橋下・維新)などでも、反EUを掲げ、既成政党を批判するとともに、外国人や移民・難民を批判・拒否する排外主義的主張、EU離脱、SNSを活用して直接訴えかける政治スタイルなど、既成政党とは明らかに異なる存在感を示し、従来の政党政治に飽き足らない政治の外側の各階層の支持を集めることに成功している。

重要な点は「ポピュリズムの主張の多くは、実はデモクラシーの理念そのものと重なる面が多い。……少なくとも理論上は、人民主権と多数決制を擁護するポピュリズムは、『本質的に』民主的であるとする」見解があり、「ポピュリズム政党においては、国民投票や国民発案を積極的に主張する傾向がある[スイス国民党、オーストリア自由党、フランス国民戦線]。直接民主主義的諸制度は、まさにデモクラシーの本来のあり方に沿うものであり、『反民主主義』と一概にいうことはできない」(水島治郎『ポピュリズムとは何か』中公新書)。EUから国家を取り戻そうと主張するポピュリズムの根底には代表制の枠内で議論するよりも代表制そのものに対する反発がある。

ポピュリズムと闘っているラディカル・デモクラシーは新しい社会運動、多文化主義、参加民主主義、討議デモクラシーなどデモクラシーの深化を求める多様な運動・思想の総称のようなものであるが、ポピュリズムとは共通点も多い。代議制民主主義の機能不全批判、直接的参加による既存政治の限界を克服する、エリートではなく草の根の人々の望みを実現する、民衆の自己統治の回復を求めるなど。

ラテンアメリカでは「既成の政治エリート支配に対抗し、政治から疎外された多様な層の人々、すなわち農民や労働者、中間層などの政治参加と利益表出の経路として、ポピュリズムが積極的に活用された。……労働者や多様な弱者の地位向上、社会政策の展開を支えた重要な推進力の1つが、ポピュリズム的政治だった」。(水島・同書)

ポピュリズムの厄介さは、ポピュリズムの要素を否定すれば、民主主義の大事な要素も否定してしまうという点にあり、批判の仕方によっては、自分自身の首を絞めるという点にある。

民主主義という言葉が肯定的な評価を獲得したのは第一次世界大戦後であり、ワイマールの悲劇を経験した第二次大戦後に、グローバルな体制的原理となった。その前はヨーロッパでは「ロベスピエールの独裁政治・恐怖政治のイメージと結びついて、暴民の支配、テロの支配として恐怖心を呼び起こす言葉であった」(福田歓一)。近代市民革命としてのフランス革命は自由・平等・博愛という普遍的価値の側面と暴民の支配という側面が民主主義の本質的構成要素であることを歴史経験として示している。

「自由」と「平等」という緊張する普遍原理を「間接民主主義」と「直接民主主義」の多様な手段(思想)との間のネジレや乖離が急激に顕在化している。日本でも憲法改正・国民投票という直面するテーマと深く関わっている。「ポピュリズムというものを前提にしてどうやって民主政治の中身を保っていくのかという問題設定をしないといけない」(山口二郎)という視点に私は賛成だ。

(運営委員 山田勝)