投稿日: 2017/02/21 10:25:34
昨年12月27日付ニューズ・ウィーク日本版は「独裁者とSNS フェイク(偽)・ニュースの世界」と題する特集を掲載、「偽情報が独裁者の武器として利用され、今年はアメリカ大統領選でも同じ事態が起きた」と報告。新年1月31日付の英フィナンシャル・タイムズは「欧州連合のアンシプ副委員長は、米フェイスブックをはじめとするソーシャルメディア企業に対し、偽ニュース排除の取り組みを強化しなければ、何らかの措置に踏み切ると警告」したことを伝えている。
ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアの世界では多様な情報交流と便利さの反面、真偽不明の情報やデマ、パクリ記事の横行が暗黒面として指摘されてきたが、米大統領選の最中にそこで展開された偽ニュース騒動は「うそ」が政治を動かす「ポスト・トゥルース(脱真実)」の時代が来たと評されほどにエスカレートしている。
「ローマ法王がドナルド・トランプ氏を支持した」、「ウィキリークスが、ヒラリーがイスラム国に武器を売っていたと確認」などの偽ニュースが大統領選中に拡散、選挙結果に大きな影響を与えたと言われる。それだけではなく、「ワシントンDCのピザ屋で民主党幹部が児童売春を行っている」という偽ニュースが流れ、それに憤った人物が実際にそのピザ屋を銃撃したという事件が起こったり、当選したトランプ大統領が記者会見で反トランプ報道で知られるCNNの記者に対して「おまえのところはフェイク・ニュースだ」とレッテルを貼り、発言を封じる騒動まで引き起こしている。
誰でも自由に情報発信できるネット環境の進展に加え、そのビジネススタイルがサイトをのぞき込む訪問者の数やシェア数で広告収入が増減する仕組みが偽ニュース横行の背景にある。ニュースの事実確認や裏取りなどは二の次で、訪問者を惹きつけるための扇情的、衝動的な見出しや記述に編集の重点が置かれるためだ。日本でも真偽不明の情報を流したDeNAの「キュレーションサイト」が閉鎖される事態が起きている。
同時に、政治的思惑や世論操作を意図した偽ニュース拡散にネットメディアが積極的な役割を果たしているところに問題の根深さがある。ソーシャルメディアの本格普及から10年、財力と権力を持つ強者がネット操作の有効性を学び、武器(商売道具)として利用し始めている。偽ニュースは「読者を欺く意図で作られる『作り話』」と定義されているが、流行のキーワードや話題を取り上げてコンテンツを大量生産する、いわゆる「コンテンツ・ファクトリー」がいまや、あちこちで活動しているという。
先のニューズ・ウィーク特集に寄稿した政治学者のフランシス・フクヤマは「偽りの情報には正しい情報で対抗すればよい。正しい情報は必ず勝つ。私たちはそう信じてきた。しかし悲しいかな、この信念はネット荒らしや悪質なウイルスが蔓延するソーシャルメディアの世界では通用しない」と嘆いている。トランプ大統領の一方的なツイッター発信がトップニュースを飾る時代、市民社会は新たな難題を突きつけられている。(運営委員 平田芳年)