投稿日: 2016/11/22 9:28:24
11月4日の衆院TPP特別委員会は、民進、共産、社民、生活の野党4党の激しい抗議を押し切り、自民・公明両党と大阪維新の会の賛成多数でTPP(環太平洋経済連携協定)承認案と関連法案の採決を強行した。もちろん衆院本会議での採決や参院での審議も残されてはいるが、与野党の現状の力関係=議席数を考えれば、衆院特別委員会でのTPP法案の強行採決は、今国会でのTPP批准をめざす安倍政権には大きな突破口である。
周知のようにTPPをめぐっては、国内農業への打撃や輸入食品の安全性などを懸念する反対の声が根強いだけでなく、医薬品価格の規制撤廃やISDS条項などをめぐっても強い疑念が指摘されてきた。とすれば国会審議では、政府が自らの見解を明快に表明し野党の批判にも堂々と反論することが期待されたのだが、実際の論戦は与党議員たちの傲慢さと卑しい品性ばかりが注目を集めることになった。「強行採決を考えたことは一度もありません」と、端から議論する気がないとしか受け止めようのない首相答弁をキッカケに、TPPの所轄担当閣僚たる農水大臣が「強行採決を決めるのは(議運の)佐藤さんだ」と放言し、謝罪の後にも「冗談で首になりそうだった」と本音を吹聴する始末で、肝心なTPPの発効に伴う社会的経済的影響を検証し、それに対処するための諸施策の議論は“まったく”なかったと言う他はない。だから当然、TPPに関する様々な疑念や不安は、政府が予定した「40時間」の審議時間を超えたからといって緩和されなかったし、いわんや疑念が払拭されたとは到底言い難い。
だいたいアメリカの新大統領が就任する前にTPPを批准するという安倍政権のスケジュールには、何か整合的説明があった訳ではない。なのにそれが決定事項であるかのように国会の審議時間を決めこれを強引に遂行するといった政治手法は、おそらく安倍政権以前にはなかった「国会軽視」もしくは「野党無視」がある。批判的見解を聞く耳を持たず、だからまたいかなる修正も受け入れないという姿勢である。
しかもこうまでして強引に批准しようとするTPPは、かつてアメリカのブッシュ大統領さえ「ブードゥー経済学」つまり「デタラメな魔術的経済学」と呼んだ「サプライサイド経済学」という、新古典派経済学の一派が唱える論理に基づく経済政策なのだ。「生産部門を強化すれば経済が成長する」というこの一派が唱える「サプライサイド理論」は「供給はそれ自身の需要をつくり出す」という「セイの法則」に基づいているのだが、これは近代経済学の基礎である「需要と供給の関係」を無視した滑稽無等な論理としか言いようがないのであり、TPPはこうした論理に依拠した「自由貿易至上主義」としか呼びようのない実に怪しげな経済政策なのだ。
実際に、締約国の企業が他国の政府を「協定違反」として提訴できるISDS条項は、遺伝子組み換え作物の表示義務を「非関税障壁」として廃止させることもできる危険極まりない取り決めなのだが、これを正当化する論理が「供給側の強化」なのだ。自らの儲けを供給側(企業)が最大化できるように、締約国政府が実施しようとする規制を供給側(企業)が常時監視し、供給側(企業)の儲けを抑制する諸施策には事前に介入、場合によっては自国の裁判所への提訴によってそれを排除できる「権利」を行使できる「透明性」の保証こそが、前述したISDS条項に他ならないのだ。
しかし思い起こしてほしい。2つの世界大戦当時にこんな国外企業優遇政策を採用した自国政府は、「売国奴」として自国民の非難に直面したのではなかったか。(運営委員 佐々木希一)