投稿日: 2016/08/22 9:17:43
7月13日NHK午後7時のニュースが「天皇、皇后が生前退位の意向を持っている」旨を報じた第1報に続き、翌日からにわかに新聞各紙が「宮内庁関係者への取材でわかった」として1面トップで報道が始まった。視聴した方も多いと思うが、8月8日午後3時から天皇メッセージのビデオ放映がなされた(約10分間;宮内庁HPに「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」掲載、およびビデオ視聴公表)。国民に対し理解を求めたいとした「個人としての」明仁天皇メッセージの要点は以下のとおり。
天皇が高齢となり「従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合」、「国事行為を行うと共に、日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方」を考えた。「既に80を超え、……次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないか」と案じている。「天皇が象徴であると共に、国民統合の象徴としての役割を果たす」ことを目的として、「国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していく」という「天皇の高齢化に伴う対処の仕方……には、無理があろう。」天皇が機能を果たし得なくなった場合に「天皇の行為を代行する摂政を置く」ことも考えられるが、それでも(天皇は象徴の地位にあり続けるから)「天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりは」ない。「天皇の終焉」(逝去、皇位継承)には、その後の「喪儀」(そうぎ)関連行事と(皇位継承に伴う)「諸行事が同時に進行することから、……とりわけ残される家族〔引用者注、皇位継承者など一家〕は、常に厳しい状況下に置かれざるを得」ない。「こうした事態を避けることはできないものだろうかとの思いが、胸に去来すること」もある。かくして天皇は公務の軽減も「摂政」の設置も断り、「生前退位」―「生前皇位継承」の強い意志を「にじませ」た。明仁天皇には昭和天皇以来の「皇室」存続という課題意識がある。
報道番組のコメントでは、このメッセージを「平成の玉音放送」とするもの(保阪正康氏)があったが、論点を正しくとらえていない。明仁天皇は心臓の冠動脈バイパス手術(2012年2月)後に美智子皇后や宮内庁幹部に生前退位の意向を漏らしたとされる。幹部は「形式だけの天皇になっても国民は異を唱えない」と思いとどまるように進言したが、天皇は「象徴としての務めを十分に果たせないならば退くべきだ、公務を減らしてまで天皇であり続けることは考えていない」と答えたとされる。それが今回のメッセージ公表に至った。
2015年の数字でいうと、公務(国事行為と公的行為)は669件とされる。天皇はなぜこんなに過酷に超多忙なのか?問題は、「国民統合の象徴」の「統合」を動態的に解釈して、12個の「国事行為」(憲法7条・6条)以外に「公的行為」をつくり、被災地見舞い・慰霊など際限なく広げてきた歴代内閣・宮内庁の象徴天皇制「運用」であり、天皇もそれを「象徴の務め」「象徴的行為」として「全身全霊をもって」引き受けてきたが、人間たる「象徴」である以上は当然限界が到来する。明仁天皇はどうも憲法規定を誤解している(憲法学者にも責任がある)。象徴の地位にある天皇の公的な行為(務め)とは12個の「国事行為」に尽きるのである。「象徴」はそもそも静態的地位であって、「象徴的行為」というのはあってはならない。超多忙で限界に来ている天皇「職」を普通の公務にするには、天皇がきっぱりと「国事行為」の原則に戻り・徹することであろうと思う。「市井の人々」・国民側にも問題がありはしないか。
(運営委員 古川純)