投稿日: 2016/05/09 5:51:08
アメリカの二大政党である民主・共和両党の大統領候補を選ぶ予備選挙が、マスメディアや識者の大方の予想に反する展開を見せている。
共和党では、いずれ失速するだろうと見られていたトランプ候補が白人至上主義丸出しの過激な言動で人気を博し、678人の代議員を獲得数して2位クルーズ候補の418人を大きくリードし、民主党でも、「資本主義の牙城・アメリカ」で社会主義者を自認するサンダース候補が850人の代議員を獲得、首位を走るクリントン候補が獲得した1628人の半数を超える善戦を続けている(いずれも3月18日現在)。
とくにトランプ候補が共和党の伝統である保守主義を平然と非難し、外交や安全保障政策でも「革命的大転換」を公言し、それによって主流派が期待する候補者を圧倒し続ける展開は、この国の社会的動揺の大きさを示して余りある。こうした事態を受けて、最近ではトランプ候補の非常識な言動が人気を博す「アメリカ政治の混迷」を不安視する論評が日本でも増えているが、翻って日本の現状を見ると、トランプもサンダースも登場しない「政治の停滞」に、いやでも気づかされることになる。
たしかに日本でも、民主・維新両党の合併を軸にした野党連合=「民進党」が発足し、「自公一極支配」に抗する動きがようやく端緒につきはしたが、アメリカ大統領予備選でのトランプ候補とサンダース候補の党員集会が、政治の現状を変えたいという活気に満ちているのに比べると、民進党の岡田代表が「政権交代可能な政治の最後のチャンス」と意気込むほどの活気はほとんど見当たらない。
トランプ候補の躍進の背景を「トランプ支持者による共和党の乗っ取り」と見なしてアメリカ二大政党制の「未熟さと危険性」を説く論者もいるが、それは逆に言えばアメリカの二大政党が広く人々に開かれており、それぞれの政治主張や要求を大統領候補者選びの選挙戦を通じて表現することが可能な「柔軟性」を、二大政党が持ち合わせていることの証とも言えなくはない。
それに引き換え日本の保守政党は、二世三世議員が幅を利かせる「政治の稼業化」が常態化し、たかが議員ごときが行政権力の威を借りて暴言をほしいままにし、党の公認を目当てに主流派に媚を売る保身ばかりが横行する、「開かれた政党」とは程遠い硬直した状態に甘んじたままである。
いずれにしても民主・共和両党合わせて20人を超える候補者が大統領候補として名乗りをあげ、半年以上の長期にわたって自らの政策と指針とを直接人々に訴え、それによって候補者同士が競い合い、その一挙手一動があらゆるメディアやネットで報じられる大統領予備選は、アメリカの民主主義が少なくとも日本よりは「健全に」機能し、社会にもまだまだ活力があることを証明していると言えるのではないだろうか。
7月に迫った参議院選挙では、消費税率引き上げ延期の是非を問うと称して、衆院を解散し衆参同日選挙の強行を目論む安倍政権の暴走にどの程度の歯止めが掛けられるのか、この国の民主主義の「健全さ」と「活力」とが問われている。
(運営委員 佐々木希一)