投稿日: 2016/03/17 8:48:37
いうまでもないことだが、清原とはPL学園の主砲として甲子園をわかせ、西部ライオンズの黄金時代を打撃で支え、巨人に移籍してからも目立った活躍で人気を博した、いずれレジェンドにもなるべき球界のスーパースターだった。引退後は野球解説者というより、どちらかといえばタレントとしての印象が強かった。そのテレビも出番が減って、最近はあまり話題にもならなくなっていた。それが突然「覚醒剤所持で逮捕」というニュースで脚光を浴び、連日のようにテレビのワイドショーを賑わせている。つねに陽のあたる道を歩んできた男が何で覚醒剤?! というのが最初の反応だった。それは覚醒剤にはどこか暗い印象がつきまとっているからだろう。
たしかに華やかに見える清原の人生にも陰が無かったわけでない。ドラフトでは憧れの巨人から指名されなかったし、最盛期でも年間を通じてのホームラン、打点、打率、MVPのタイトルを獲ったことはない。巨人に移ってからも晩年は故障がちで成績が上がらず、戦力外通告という屈辱も。離婚により子どもたちの養育権を失ったのも打撃だったのだろう。だからといって、少年へ夢を与えてきたスターとして、反社会的存在としての暴力団と付き合い、犯罪である覚醒剤に手を出したことは、決して許されるべきことではない。
それを前提として、今回の事件を巡って私なりに考えたことは別にある。警視庁が小出しにし、その度にマスコミが喜んで飛びつく情報のかけらをつなぎ合わせると、どうやら清原逮捕に至るまで2年余も内定を続けていたようだ。どんなルートで、いつ、どこに行き、誰と会ったかはもちろん、泊まったホテルのシーツ、出入りしたレストランの食器類、家庭ゴミまで調べていたらしい。清原の私生活のほとんどが丸裸にされていたといっていい。その捜査を担ったのは警視庁組織犯罪対策五課の特別チーム5-6名だというが、それでも警察権力をもってすれば一私人のプライバシーをそこまで暴くことは可能なのである。
こうした秘密捜査をするのは何も組織犯罪対策部だけではない。治安維持のため個人や団体の情報を秘密裏に探ることをもっぱらの任務とする、警視庁の公安部や警備局公安課、公安調査庁、内閣情報調査室など各種秘密捜査機関があり、その総勢は1万5000人に上るという。その他に自衛隊には情報保全隊という怪しげな諜報部隊がある。国家権力に守られたその彼らが、体制に好ましくないとみなす人物を日夜密かに監視し追跡しているのである。監視の技術も、盗聴器、防犯カメラ、三次元顔画像識別システム、自動車ナンバー自動読取システム、など年々進歩し広域化している。日本はすでに国家による高度監視社会になったといっていいだろう。それでもオーウェルの『1984年』に比べればまだ安心していられるのは、憲法による基本的人権の保障という壁があるからだ。
しかしながら、その人権という壁を突き崩そうという策謀が進められている。自民党が改憲により憲法にも潜り込ませようとしている緊急事態条項がそれである。自民党案によれば緊急事態条項は、なんらかの事態に陥った時に、内閣総理大臣は緊急事態を宣言すれば、法律に準じる各種政令を発し、基本的人権の制限を可能にする、というものである。その時点では、基本的人権がゆえに日頃は公然と利用することのできない公安関係が集めた極秘情報が、一気に公然化し合法的に利用されるのだ。考えれば、怖しい限りである。
(運営委員 牧梶郎)