投稿日: 2015/12/18 11:05:21
「これはテロではなく戦争だ」、こう宣言して、フランスのオランド大統領は、イスラム国によるパリ無差別・襲撃事件に対して非常事態宣言を出した。警察権限が飛躍的に強化され、軍隊が動員された。わずか一週間で164人が逮捕され、793件の家宅捜査がなされ、174件の武器押収がなされた。裁判所の令状なしに昼夜を問わず家宅捜査、武器押収、「危険人物」に自宅軟禁あるいは滞在禁止を命じた。さらに治安対策を強める憲法改正、危険思想を持つイスラム礼拝所の閉鎖、外国人の国外通報手続きの簡素化などを提案している。非常事態の恒常化であろう。しかしこうした対応で安全と自由、人権と法治を守ることができるのであろうか?“膨張する国家、委縮する社会”という最悪の構図である。英もシリアへ空爆を拡大し、独も仏軍事支援を拡大、「仏英独がIS戦争の先頭に」と報道され始めた。しかも、空爆で事態を解決することはできないが、フランスとの協調優先で“欧州一体”を選択したという。西欧が非西欧を攻撃するというのであろうか?私には空爆を受ける側のイスラム教徒の人々の悲鳴が聞こえる。
ピケティ氏(『21世紀の資本』の著者)は、11月24日、フランスのル・モンド紙で「テロリズムが、中東の経済的不平等によって増幅されているのは明らかだ。私たち西洋諸国がテロの発生に深く関わっている」と述べた。
確かにピケティが指摘する経済・労働(格差)問題は、イスラム国問題の重要な側面を指摘しているが、現実は次第に経済・労働問題から、9・11以降グローバル政治のなかで、戦争、投資、社会開発、貧富の絶望的拡大と社会的停滞、人権と民主主義、国民国家としての破綻、無秩序社会の出現、武器の流出と暴力、道徳的退廃、宗教的対立、西欧対非西欧という、多様な側面を持った文明間の接触に伴う“共存よりも対立”の側面が拡大しながら推移しているように思われる。
イスラム国は9・11以降、アメリカが主導した“テロ戦争”が生み出した鬼っ子のようなものだ。私たちは「テロ組織と国家」との“非対称的な戦争”が21世紀の重要な戦争形態であることにもっと関心を払うべきだ。「テロ」と「戦争」では全く違うイメージを人々に抱かせる。ダブルスタンダードの奇妙な政治だ。人類が経験したことのない“戦争”だ。
どこから始まったのか?イラク戦争ではフセイン政権が打倒された。昔でいえば、米国主導の明らかに内政干渉であり、理不尽な介入であった。この時、米国に支えられたシーア派政権と闘いながらスンニー派原理主義は成長し、アルカイダ勢力に代わって「遠い敵より近くの敵と戦う」としてイスラムの地で、自分たち文化と歴史と厳格な宗教生活を守りながら進むことがイスラム教再興の道と主張。カリフ制の復活とともに、いつの間にかイスラム国家を宣言するまでに成長した。破綻国家の狭間でイラク・シリアにまたがるイスラム国家が誕生し、再生産されている。イスラム国家は国境を持っていない。事実上、イスラム(スンニー派)宗教共同体を国家として宣言した。彼らを解体することはできないだろう。新たな“彼ら”を再生産するだけだ。とすれば、憎悪の連鎖の拡大の中で、出口はどこにあるのだろうか?少なくとも、有志連合に参加している日本国家は直ちに離脱すべきだ。無差別襲撃から国民を守るための選択である。(運営委員 山田勝)