投稿日: 2015/11/16 9:17:45
「物価2%上昇 また先送り」、10月31日付大手各紙は一面トップでこう報じた。日銀が30日の金融政策決定会合で2%物価目標の達成時期を「16年度前半ごろ」から「同後半ごろ」に先送りした事実を伝えたニュースだ。なぜこれが一面トップなのか。
話は3年ほど前に遡る。12年末に政権に就いた安倍首相はアベノミクスを掲げ、日銀に2%の物価目標導入を迫った。同政権は首を縦に振らない白川方明総裁の再任を拒否、元財務官僚の黒田東彦氏を総裁に据えた。黒田総裁は13年4月の政策決定会合で、「消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定目標』を2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。このため国債の買入れなど量・質ともに次元の違う金融緩和を行う」との方針を示し、了承された。いわゆる異次元緩和による物価目標2%のスタートだ。
しかしこの異次元緩和・物価目標設定には「今の日本は金利水準がほぼゼロで、これ以上の引下げ余地はない。もはや金利を使った景気刺激は難しく、物価上昇も望めない」(工藤教孝北海道大准教授)、「ベースマネーを増やしたくらいでインフレ期待が高まるなら誰も苦労などしません」(池尾和人慶大教授)と経済専門家から異論が噴出。
その後の物価の推移はどうか。14年4月まで1.5%へ上昇するが、消費増税を機に1%を割込み、国内景気も二期連続のマイナスと景気後退入り。あわてた日銀は同年10月、追加緩和に踏切り、「追加緩和はあくまで2%物価目標の実現を確実にするためにやった」(黒田総裁)と14年度内の目標達成に自信を示した。
ところが15年に入って状況が厳しくなると黒田総裁は「きっちり2年とは言っていない」「どこの中央銀行も予見できない」などと発言、国会で14年度内の目標達成を問われ、「15年度を中心とした時期に達成する」と1年先送りする。しかし事態はここで終わらない。消費者物価は月を追って下がり続け、今年4月、黒田総裁は達成時期を「16年度前半ごろ」にまたまた先延ばし。さらに今年8、9月に連続してマイナス0.1%になると、さらに冒頭の各紙報道の通り「16年度後半ごろ」へと3度の先送りに至る。
ここで指摘したいことは、アベノミクスの是非や物価2%目標の成否ではない。「通貨の番人」、「最後の貸し手」と称される中央銀行(日銀)の有り様であり、その最高責任者である総裁の言動の適否である。
この2%目標を巡ってメディアが軽視する実話がある。黒田総裁とともに副総裁に指名された岩田規久男学習院大教授は衆院の参考人招致に出席、「日銀は2%を必ず達成する、この達成責任を全面的に負う必要がある」と強調、「遅くとも2年で達成できるのではないか」と述べた。2年内に目標達成できなければ、「責任は自分たちにあると思う」とし、「最高の責任の取り方は辞職するということだ」と言明。2年後に2%に達しない場合は職を賭すということかとの再度の問いに「それで結構だ」と明言している。しかし、いまだこの責任を取ったという話しは聞かない。
「銀行の銀行」といわれる中央銀行の金融政策が本来の効果を発揮するためには、「市場の信頼」と「信認」が前提条件となる。政策責任者は国民に対して説明と結果責任を負っていることを黒田総裁はよくよく自覚すべきである。
(運営委員 平田芳年)