投稿日: 2015/05/17 8:45:12
日本国家の対「イスラム国」・有志連合参加
「ある朝、7時のニュースを見ていると、突然臨時ニュースが飛び込んできた。米軍・イラク軍・イラン革命防衛隊・サウジ・ヨルダン軍が『イスラム国』大軍と激戦になり、イラク中部の地で包囲され危機に陥った。自衛隊はNATO軍とトルコ軍と共に救出に向かい、『イスラム国』に突入」。一昔前なら冗談で済んでいた“絵柄”が、昨今、少し真実味を増してきた。驚くほどの変化・悪化の時代である。悔しいが、私はそう実感している。
余り大きな話題になっていないが、戦略的要点だと思う二点を指摘しておきたい。
第一は、防衛省設置法12条改正問題である。12条問題とは何か?文官統制の廃止である。簡単に言えば、自衛隊の作戦・部隊運用を制服組が支配し背広組を排除する体制をつくることである。「自衛隊をなぜ使うかを考えるのは政治家の仕事だが、どのように部隊を運用するかを考えるのは制服組の仕事だ。判断のスピードが求められる時代にあって、グレーゾーンなどの事態に対応するうえでは当然だ」とされる。
1970年4月国会で佐藤栄作首相は「自衛隊のシビリアンコントロールは国会の統制、内閣の統制、防衛庁内の文官統制、国防会議の統制による4つの面から構成されている」と明言。安倍内閣はこのシビリアンコントロール体制の一角を突き崩すことになった。
部隊の運用(作戦)は、戦前は統帥権として天皇に帰属し内閣は関与できなかった。「統帥権の独立」を掲げた軍部は暴走し中国への侵略戦争に至りつく。戦後、この苦い経験を背景に、1954年陸海空三自衛隊の発足と防衛庁を設置するときに、この教訓を組み込んだのが“文官統制”であった。また一つ留め金が外れた。そして制服組の台頭である。
第二は、すでに昨秋日本国家は対「イスラム国」・有志連合に参加し、その一翼で活動していることである。この事実は、今年2月に入って突如報道された。報道では昨秋10月にはすでに米国国務省のHPには掲載されていたそうだ。当初、日本政府・外務省は頑なに参加を認めなかったが「人道支援だから問題ない」として菅官房長官が追認した。国民の誰も知らず、メディア報道もなく、肝心の国会討論もなく、密かに断行された。これは“宣戦布告なき戦争参加”である。政治的には追認して済ませられる問題ではない。有志連合参加が意味する政治的意義は計り知れない。オバマ大統領は繰り返し「イスラム国」をせん滅する、有志連合は空爆から地上戦を含む体制をとると言明している。有志連合は反テロを掲げた“軍事同盟”であり、その参加国は、派兵はなくとも全体としての軍事作戦の一角を担うことになる。
新ガイドラインと安保法制が行き着く先には、テロ戦争として中東への派兵、「イスラム国」との戦争へ日本国家が踏み出す姿を見ることができる。
戦前日本国家は、対中国戦争は“宣戦布告なき戦争”であり、対米戦争は“宣戦布告の戦争”であった。しかも、満州事変、北支事変、支那事変と称し、決して戦争とは言わなかった。
今、戦争準備は決して「戦争」とは言わず、「事態」を乱発している。現代のテロ戦争も緊急事態と称するのであろうか?有志連合参加は“声もない”まま、日本国家が宣戦布告なき戦争に突入したのではないか。思い過ごしであろうか?
(運営委員 山田勝)