投稿日: 2015/04/15 11:58:47
なぜ今空母か
3月25日、海上自衛隊の新型護衛艦「いずも」が防衛省へ引き渡され、神奈川県横須賀基地の第1護衛隊群に配備された。満載排水量27,000トン、全長 248m、全幅38m、乗員約470名、哨戒ヘリコプター、輸送・救難ヘリコプターなど14機の搭載が可能。排水量、全長、乗員数、搭載ヘリ数とも海自史上最大の艦艇となる。
「自衛隊は軍隊ではない」という建前から、自衛隊装備について国際社会では通用しない独自用語が使われ、政府予算案の説明時に配られる中期防衛力整備計画別表には、海自艦艇の主要装備は護衛艦、潜水艦、その他しか記載されていない。ジェーン海軍年鑑で空母、巡洋艦、駆逐艦、フリゲイト艦などに分類される水上戦闘艦をすべて「護衛艦」と称しており、今回の「いずも」はヘリコプター搭載護衛艦と呼ばれている。しかし写真を見れば明らかなように、滑走路に相当する全通甲板が装備されており、国際軍事常識では ヘリ空母ないしは多目的空母(航空母艦)と呼ばれる戦闘艦だ。
防衛省は「いずも=空母」を否定するが、旧日本海軍の空母「飛龍」を上回り、現在運用されているイタリア海軍の軽空母「カヴール」、スペイン海軍の強襲揚陸艦兼軽空母「フアン・カルロス1世」とほぼ同規模の能力を有し、韓国が07年に就役させた空母型強襲揚陸艦「独島」より1ランク上の性能を持つ。すでに09年以降、19,000㌧の「ひゅうが型ヘリ空母」2隻が就役しており、17年に引き渡される「いずも型2番艦」の就役でヘリ空母4艦体制が整い、ヘリ空母を旗艦にイージス艦、ミサイル艦、汎用護衛艦などで空母機動艦隊を構成、日本周辺海域に4つの艦隊群として展開する体制に強化される。
なぜいま自衛隊に空母が必要なのか。中谷元防衛相は「いずも」引き渡し式で艦長に、「輸送や医療など各種機能が充実し、国際緊急援助活動などに一層協力できるようになった。任務に最善を尽くしてほしい」と訓示した。ヘリ9機の同時運用が可能で、他艦艇への燃料補給や1000人近くが長期宿泊でき、電子会議室や手術室なども備え、大規模災害時の救助や洋上司令部として活用することを強調するが、それならば「いずも」(1200億円)の3分の1以下で建造が可能な 揚陸艦、輸送艦、補給艦を装備すれば済む。
高い対潜水艦戦能力を持ち、大型の格納庫、エレベータを装備してオスプレイやトラック50台を艦内デッキに収容できる空母型戦闘艦を装備するのは東シナ海、南シナ海に空母艦隊配備を目指す中国海軍を意識した軍備拡張の狙いがある。尖閣諸島紛争を想定した離島防衛作戦や米軍のアジアシフトと連携した動きだ。
60~70年代の国会論戦で野党は「わが国が保持し得る防衛力には、自衛のための必要最小限度という憲法上の制約がある」との政府答弁を引き出し、「例えばICBM、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されず」(瓦防衛長官答弁)との政府統一見解で軍拡競争に歯止めをかけてきた。しかし90年代以降、国会での軍拡への歯止め論議は影を潜め、空母配備で中国と軍事的に対峙する局面を迎えようとしている。
17年からの配備が決まっている米ステルス戦闘機「F35」の短距離離陸・垂直着陸型を導入すれば、「いずも」を改造するだけで戦闘攻撃機10数機を搭載した本格空母に変身する。事実、「いずも」の飛行甲板は戦闘機が離発着時に噴出する高温排気ガスに耐えられる処理が施されているという。与野党の「平和ぼけ」を座視するわけにはいかない。
(運営委員 平田芳年)