投稿日: 2015/03/16 9:47:18
現代社会における格差の是正を提起―トマ・ピケティ著『21世紀の資本』
ピケティ『21世紀の資本』がブームだ。どのように評価されているのか、2誌より紹介する。
■ピケティの『21世紀の資本』は暗黒の「資本の歴史」を暴いた点で画期的だ(水野和夫氏)
これまで、資本あるいは富に関する長期的なデータは全く欠けていた。だから、近代になっても資本については「データなき論争」が続き、いわば暗黒の時代だった。ピケティが明らかにした資本の実態は衝撃的だ。1980年代以降、富の集中と格差の拡大は、フランス革命前の身分社会であるアンシャン・レジームの世界のレベルに戻っていることが分かったのである。近代とは、あるいはその象徴的理念である進歩とはいったいなんだったのか?これまで格差に関する分析は生産された付加価値に占める賃金の割合を指す労働分配率を使って、この比率が長期的に低下(上昇)傾向にあるのかどうか、あるとすればその原因は何かを解明するのが一般的であった。ピケティの業績が素晴らしいのは、フランス革命以降の主要国の相続申告書などを調べて資本/所得比率を割出したことによって、どの国においても富の集中が進み、どうして資本/所得比率が上昇し、富の集中が起きるのかを明らかにしたことにある(『atプラス』23号)。
■資本課税という政治権力の行使を民主化することが富の集中を緩和する(間宮陽介氏)
ピケティの金融資本主義は富のもつ規模の利益と財産の相続世襲を通じて富の集中を半ば宿命としているように見える。ピケティが、マルクスと違うのは、この富の集中を革命によって打ち倒すのではなく、市場とデモクラシーの基礎の上に、コントロールしようとしていることである。市場とデモクラシーを基礎にするが、市場が富の集中化、経済格差の拡大を促進する可能性をもつ以上、この流れをせき止めるのは、集中する富に対して課税を行なうこと、そして不透明な金融資産の流れを把握し、それを万人の目に触れるようにし、資本課税という政治権力の行使を民主化することが富の集中を緩和する、これがピケティの処方箋である。累進的所得税、累進的相続税を強化するとともに、現在部分的にしか実施されていない(例えば固定資産税)資本課税を普遍化し一般化すること。しかもこの資本課税は一国内だけでなく世界的な規模で行なわれなければならない(『世界』3月号)。
■ピケティ自身は「現代思想」誌に掲載されているインタビューで次のように答えている。「富への累進課税は金融の透明性-資産と企業会計の透明性-の増大を伴います。このことが、非常に重要なのです」「私は、課税とは課税以上のものだと思うのです。それは法的なカテゴリーを生み出す方法、財務の透明性と民主的な説明責任とを生み出す方法なのです」資本課税がグローバルに、世界的な規模で行なわれなければならないとの主張についても、「私はそれがグローバルである必要はないと思っています。多くの前進が国レベルで可能です。よりグローバルな協力があれば、さらにいいでしょう。完全にグローバルな税制と全面的な国家主義的対応を両極として、その間にはさまざまな解決方法があるのです」「世界的な資本課税が現在では空想であったとしても、課税の前段階となる資本資産の把握は決して空想ではありません。資本に対する税の主要な目標の1つは、各種資産タイプの定義を洗練させ、資産、負債、純財産の評価を行なうルールを設定することにあるからです」(現代思想 1月臨時増刊号)
市場やビジネスのもつ制度破壊に対し、それに抗していく力を社会にビルトインしていくことを、データを基に、客観的事実として提示し、その格差是正に向けた解決策まで提供している経済書、そこに、注目をあつめている理由があるように思われる。(運営委員 豊田正樹)