投稿日: 2015/02/20 9:42:03
「イスラム国」(正確には「イラクとシャームのイスラム国」=ISIS)による邦人人質・脅迫事件は2月1日早朝、2人目の人質である後藤健二さんの殺害映像がウェブに公開されるという最悪の結果で幕を閉じることになった。後藤さんと湯川さんのご遺族のご心痛はいかばかりかと思われるが、今はただ「イスラム国」による非道な2人の殺害を強く非難し、お二人のご冥福を祈りたいと思う。
ところで今回の人質・脅迫事件が最悪の結果に終わったことを受けて、マスメディアでは日本政府の対応の検証やテロの背景分析等々さまざまな見解が飛び交っているが、私にはそのいずれもが、2004年4月のイラクでの邦人人質事件の教訓がほとんど無視もしくは軽視されているように思えて、実にやるせない気分にさせられた。
もちろん大きな変化もあった。とくに重要なのは「各国政府は、国外において自国民を保護する義務がある」という「近代国民国家の建前」を日本政府が受け入れ、人質となった邦人とその家族を「お上に楯突く非国民」のごとく非難して謝罪会見までさせた、10年前のようなバッシングが自公連立政府の要人や閣僚、そして読売新聞をはじめとした右派論壇によって煽動されなかったことである。湯川さんのシリア入国に「怪しげなビジネス」の影を感じ、あるいはあまりに性急で「無謀」にも思える後藤さんの「イスラム国」支配地域への潜入に疑義を持ったとしても、それらは誘拐・脅迫という犯罪行為に直面している彼らの救出活動の妨げになってはならず、まして「自業自得」などという非難が的外れであることが、ようやく「当然のこと」になったのだ。
だが他方で日本の中東外交は、いまなお「アラブ社会の現実」と真剣に向き合うことなく、「国際社会」という名の欧米諸国中心の「先進国クラブ」に追従しつづけ、中東地域でより公正な実効性ある民生援助が展開できるような「援助大国」に相応しい独自の外交ルートや情報網をもち得ていない、10年前と変わらぬ恐るべき事実も明らかになった。実際に日本政府は今回の「イスラム国」との交渉でもヨルダン政府に依存する以外の手段を持たず、もっと言えばヨルダン以外のアラブ諸国との外交ルートを通じた情報収集や協力要請さえ、まったく不十分だったと言うほかはないからである。
これでは10年前の邦人人質事件の際に、アメリカ政府から「邦人誘拐の危険がある」との情報提供を受けて警視庁、公安調査庁そして内閣情報調査室の三者による合同対策チーム設置が検討されながら、結局は「アラビア語に堪能な人材がいない」とのお粗末な理由で立ち消えとなり、その後の邦人人質事件に不意を打たれるという失態を演じた手痛い教訓は、まったく活かされなかったと言って過言ではあるまい。
他国の情報に依存する外交は、所詮は他国の思惑に自国が利用されることを意味するだけである。「国際社会」の一方的情報に依存して「イスラム国」を「残虐なテロ組織」と断じ、「テロの撲滅」を声高に唱えながら「非軍事的分野の援助」を強調しても、現実のアラブ世界では「世間知らずのたわごと」と一蹴されるに違いない。なぜなら現実の中東における最悪・最強のテロ組織は、病院や小学校の爆撃さえ厭わないシオニスト国家・イスラエルに他ならず、この「シオニストのテロ」を止める真剣な努力なしには、中東地域の「テロの連鎖」を断つことはできないからである。
(運営委員 佐々木希一)