投稿日: 2014/11/20 12:00:34
排外主義に鈍感なマスメディア
理解できない出来事(事件)が起きる。積み重ねてきた経験や“価値観”では掴みきれない変化が起きている。多くの人々が反対あるいは批判的であろう特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認、そして原発の再稼働、消費増税などが、安倍政権によって全く疑問もなく、大多数の合意であるかのように進められていく。メディアは権力批判に過剰に慎重になって、その役目を果たしていない。
そんな時、珍奇な光景がテレビ画面を通して流れた。紙メディアも追った。10月20日の橋下徹大阪市長と桜井誠在日特権を許さない市民の会(在特会)会長が机越しに怒鳴り合うシーンだ。橋下氏がまともに見えたとか、これは明らかに出来レースだ、と見方は様々だろうが、100人以上の報道陣を前に行われ、報道されたことに違和感を持った人は多いと思う。在特会の幹部と会った山谷えり子国家公安委員長が問題視されているにもかかわらず、今回の取り上げはメディアが在特会に“市民権”を与えたような結果になった。
この怒鳴り合いのなかで1つ気になることがあった。朝日新聞によると、橋下氏は「参政権を持っていない在日韓国人に言ってもしょうがない。在日の特別永住制度に文句があるなら、それをつくった国会議員に言え」と言ったという(10月21日付)。橋下氏が特別永住制度に対して疑問を投げかけ、在特会の主張を後押しした格好になる。
前出の山谷氏も「法律やルールに基づいて特別な権利がある」と、在日特権の存在を否定せず、特権であることを示唆した発言も過去にはあった。「明らかにヘイトの一部は政権トップからインスピレーションを得ているように見える」と英誌は紹介している。今回の2人の怒鳴り合い報道は、ちまたの排外主義を政治の舞台へ逆流させるものであり、メディアの取り上げ方に疑問が残る。
「極右を保守から切り離せ」と主張する社会学者の樋口直人氏(徳島大学准教授)は、日本は不満や不安が産み落とした排外主義運動ではなく、1つの政治的嗜好があるとする。そして活動家層にはホワイトカラーも多く、接触するメディアやサイトにも一定の特徴があるという。歴史修正主義者に出会った彼らにとって在日という存在が「負の遺産」で、敵だと映るのだ。韓国や中国に謝り続ける日本に苛立ちを覚えるということなのだろうか。
今年2月の東京都知事選で、田母神俊雄氏が60万票を獲得した。彼の演説に遭遇したとき、周辺には50歳ぐらいの中年の女性と、その子ども位の年齢の若者が多いのに驚いた。普通の市民が何かの道筋を経て行動に出たという感じの、ある種の「市民運動」という怖さがあった。
日常に不満、将来に不安を感じる人は少なくない。歴史認識などでマスメディアには描かれていない物語を発見し、日本に長く暮らし地位も確立した在日に対する憎悪が増幅し、行動に出たと見ていいのだろうか。在日の実情も知らず、歴史の真実も知らないでのこの行動は、極右政治家の主張を街頭で垂れ流す役目も担ってもいる。今は言葉だけかもしれないが、いつ暴力に発展するかわからない。
石原慎太郎氏や田母神氏に呼応した、在特会などの動きがメディアによって表舞台で合流した。今回の報道の仕方などをみると、メディアは問題の深刻さを全く理解していないようだ。
(運営委員 寺島紘)