投稿日: 2014/05/21 10:36:32
NEWS LETTER 5月号 巻頭コラム
今年の憲法記念日は、安倍政権が集団的自衛権の行使容認に向けがむしゃらに突き進む中で迎えた。当日の全国紙も揃ってこの問題を社説・主張で取り上げている。東京新聞が「憲法を考える 怪人二十面相」という奇異な標題を掲げているが、各紙の立ち位置に格段の変化はない。すなわち、朝日、毎日、東京が集団的自衛権は他国のための戦争であり、行使容認には限定的であれ反対、読売と産経は閣議決定での容認に賛成であり、さらに明文改憲にまで進むことを主張、日経は基本的に賛成だが国民の十分な支持をえてからと、慎重論である。
憲法記念日を前にしてもう一つ話題になったのが、「憲法9条でノーベル平和賞を!」という運動である。この運動は神奈川県の一人の主婦によって始められた。彼女は、憲法9条を改定しようとする政治の動きに危機感を持ち、9条を守るためにできることとして、「9条に平和賞を」とノーベル賞委員会に訴えることを思いついたという。昨年1月、彼女は思い切ってメールを出したが無視された。その後もめげずに7通のメールを送り、5月にはインターネットで集めた1500人分の署名も送ったところ、ようやく返事があった。候補の受付は毎年2月1日で締め切っていること、候補の受理には有識者の推薦が必要なこと、そもそも受賞者は個人や団体に限られ「憲法9条」のような抽象的なものは候補になれないこと、などを知らされた。そこで、これまで9条を守ってきた主権者である「日本国民」を受賞候補とし、知人らと「『憲法9条にノーベル平和賞を』実行委員会」を結成し、推薦人と署名を募った。今年2月1日の応募締め切り時点で、大学教授など43人の推薦人と2万4887人分の署名が集まったという。ノーベル賞委員会に提出したところ、4月9日、「今年の278件の受賞候補の一つにエントリーされた」とのメールが届いた。
当初、このニュースは大手メディアからは無視されたのも同然だった。たしかに、候補として受理されたとはいえ候補は他に277もあり、この時点で「9条にノーベル賞」はほとんどジョークでしかなかったろう。ところが、インターネットを通じてこの運動が広がりを見せるに従って、メディアも注目し始めた。5月2日には毎日新聞が取り上げ、3日の憲法記念日には信濃毎日が社説で論じ、4日には朝日新聞も記事にした。賛同者はこの原稿執筆時点(5月6日)では約3万5000人に達している。しかし、「実行委員会」は賛同者100万人を目標にしており、これから一段の運動の広がりを期待している。
年季の入った平和運動の活動家なら、こんな絵に描いた餅のような、実現可能性が限りなくゼロにちかい運動は考えないだろう。もっと実効性が期待できやるべきことが他にいくらでもあるからである。だが、時には初心に帰って、素朴な夢を想い描くことも大事である。私も、憲法記念日に、憲法9条のおかげで日本国民がノーベル平和賞を受賞した夢をみさせてもらった。
その夢はさらに続く。受賞の決まった日本国民の最高意思決定者と自認する安倍首相が「ノーベル平和賞は日本の国防戦略に反するので辞退する」と表明、一方で、戦後の平和と民主主義は天皇制存続の基盤と理解する平成天皇明仁が、国民の象徴として喜びの詔を宣する。そこで主権者である国民が、安倍首相の罷免を求めて立ち上がり、かくて安倍政権は瓦解するのである。(運営委員 牧梶郎)