投稿日: 2014/04/17 4:28:58
NEWSLETTER4月号巻頭コラム
日本人男性の約5%・300万人、女性の約0.2%。これは「色覚異常」といわれる人の割合だ。そして保因者は10人に1人とも言われている。今、この色覚異常を把握する「色覚検査」を学校健康診断において再開させようという動きがある。昨秋、日本眼科医会が文科省に要望書を提出、にわかに注目を浴び、今通常国会でも取り上げられた。子どもが色覚異常に気がつかないまま進学や就職に臨み、進路を断念せざるを得ないケースがあるからだというのが理由だ。
先天的な色覚異常は、俗に「色盲」「色弱」などと呼ばれ、その生活実態は世間から誤解を受けている。色覚異常の人は色が分からない・色が見えないのではなく、ほんのわずか見え方が違うだけで、個人差もあり、自分の色覚特性をある程度理解できていれば、日常生活や仕事に大きな問題は生じない。軽い症状の人が多いとはいえ、色彩感覚の相違を自力で把握することは困難であるし、有効な治療法もなく、眼鏡で矯正もできない。その意味で色覚検査(眼科検診)は一面有用でもあったが…。
この色覚検査は1958年以降、小学校の全児童を対象に「石原式検査表」で検診の一環として「強制的」にされていた。プライバシー保障もなく、徴兵検査よろしく検査をされた記憶がある人も多いと思うし、「色盲」「異常」などの語感ゆえ偏見を招き、社会生活に多くの面で不当な差別の対象ともなった。典型的なのは「色盲・色弱不可」という就職差別だった。
にもかかわらず「誤った道に進まないように指導する」という信じ込みで検査が継続され、多くの人の人生を無理やり変える結果にもなった。2003年になってやっと、「色覚検査において異常と判断される者であっても、大半は支障なく学校生活を送ることが可能である」を理由に定期健康診断の必須項目から削除した。それまで、色覚検査が学校検診のなかで行われていたのは、世界で日本だけだった。
就職に関しても、労働安全衛生法で義務付けられていた雇い入れ時の健康診断の必須項目に色覚検査が加えられており、法的には新規採用社員は色覚検査を受ける必要があったが、01年に廃止され現在に至っている。多くの職種で色覚差別はなくなったが、一部では職務に支障があるということで就職制限されているようだ。
この色覚検査を希望者に対し、学校で受けられるようにするというのが眼科医会。しかし学校検診における色覚の問題は、他の項目にも及ぶ問題だ。健康に関しては自己決定権が良くも悪くも尊重される昨今、集団管理的な検診が適切なのか。とくに色覚は、問題を指摘されても治療法がないことへの配慮をどうするのか、自己決定できない児童に判断を押しつけてよいのか、支援や相談できる体制が教育現場で可能なのだろうか。そして依然としてプライバシーの問題も残る。
徴兵制が世界的に行われていた時代には、身体的欠陥による徴兵不適格者は社会的にあらゆる場面で差別を受けたため、色覚異常は過剰に障害として問題視された時代もあった。その時代に戻るとは思わないが…。
そして、色覚異常という言葉にも違和感を持つし(現在、「色覚特性」や「色覚差異」などが提案されている)、そのための色覚検査を、そもそも学校で行う必要があるのか。慎重な、そして広い議論が望まれる。(運営委員 寺嶋紘)