投稿日: 2014/03/20 11:12:13
『FORUM OPINION』23号の特集テーマについて
-脱原発の道―
今号の特集は「脱原発の道」です。編集委員会では「脱原発への道」と「脱原発の道」の論議がありました。「へ」を入れるかどうかの些細な議論のようですが、本当は原発をめぐる重要な現状認識の差異がその背後にあると思います。3・11福島原発事故以前は原発推進の道と脱原発への道は政治的争点でした。しかし、福島原発事故以後は脱原発の道しか私たちには選択肢はないのです。3・11事故によって「原発の風景」は一変したのです。
政府・行政が隠しても隠しても“放射能汚染”の過酷さは顕在化します。汚染水問題はその象徴です。原発事故の怖さはある意味これからです。小泉元首相が原発廃止と自然エネルギーへの転換を主張しています。軌を一にして自民党では福島原発事故で帰還できない地域と人々が存在するとして、全村・全員帰還を前提とした福島事故対策の転換を主張し始めました。無論、その基準を誰が認定するのか、基準の妥当性があるのかなど政策的具体化をするうえでの問題群は全く論議されていません。それでも、この政策転換の土台には原発事故によって故郷が失われ、故郷に帰れない人々が大量に生まれることを前提にせざるを得ない“福島の惨状”があるのです。先祖以来、住み続けてきた村や町の、“故郷の喪失”は誰が補償するのですか?そもそも補償という概念に馴染まない異様な事態です。角度を変えれば、日本列島の中に人が住めないブラックホールが誕生するのです。日本地図が変わる深刻な事態です。原発推進とは原発立地地域ではどこでもこの危険を持っているということになります。このリスクは莫大なもので、人間社会では償いができない質を持ったリスクです。脱原発の道はこれから全国民を巻き込んで、国際的注視の中での、保革を超えた、避けられない闘いです。
3本の貴重な原稿をいただきました。
Misao Redwolf(ミサオ・レッドウルフ)さんのインタビューは“官邸前占拠行動”がどのような人々によって担われ、今もなお、担われ続けているのか、貴重な原稿です。
門間淑子さんの報告は福島に故郷を持つ女性議員が、くやしさを噛みしめながら、福島の人々に寄り添い、福島と結んで闘い続ける道を歩んでいる貴重な報告であり、記録でもあります。学び尽くし、連携するための実践的な宝庫です
小野一さんはドイツの脱原発合意が現実的諸問題を通じて脱原発の道をどう歩み始めているのかを報告しています。ドイツ政治に大きな転換をもたらした緑の党は「即時撤退を求める綱領上のラディカルさとは裏腹に現実路線が優勢となっている」こと、それは「即時撤退を求める環境保護活動家たちと緑の党の政治家の亀裂は決定的に」なっていること、脱原発の道はこの内部対立を含む“いばらの道”であることを鋭く指摘しています。日本でも表現は異なりながらも同質の問題が主体の側に始まっているように思います。
脱原発の道は、原発の廃炉過程をどう具体化するのか、処分場をどう確保するのか、その技術と財政負担はどうか?福島での「故郷喪失」をどう国家の側で社会の側で責任を取るのか?更には自然エネルギー供給事業をどう支援・発展させられるのか、地域コミュニティーの再生とどう関わらせるのかなど、多層な問題群を抱えがら現実の政策・制度の構造転換を進めることが不可欠です。思いを形にする力が必要なのです。そのためにはどのような立場であろうとも「異質なものの連合」こそが、社会でも政治でも問われていると思います。編集委員会は今後もこの課題に挑戦し続けます。
(本誌編集委員会本号責任者/山田 勝)