投稿日: 2016/04/06 4:10:03
本号の特集テーマ「家族」は、本誌が初めてとりくむ難しいテーマである。最高裁大法廷判決(2015.12.16)が婚姻届け時に「夫婦同一姓(氏)」登録を義務付ける民法750条を合憲と判断し、「選択的夫婦別姓(氏)」制度への転換を必ずしも否定はせずに今後の社会の一層の論議と国会の立法裁量にゆだねたこと、総じて日本の今後の「家族」のあり方・「家族観」と政策をどう考えるのかという問題に編集委の関心があった。
森周子論稿はドイツの家族政策について連邦家族省の「報告書」にもとづいて論じ、ドイツでは政府、地域、企業の有するあらゆる資源を動員して女性のみならず男性も、家庭内のみならず家庭外の人々をも広く育児に関わらせることで育児負担を軽減し、それによって男女両性の仕事と家庭の両立を実現しようとしていることを指摘した。
木幡文徳論稿は家族法の立場から、先の最高裁判決の多数意見(合憲)と少数意見(違憲)を理解するに当たり必要な「家族」と「姓(氏)」を考える基本的論点(「氏」の団体的性格、「氏」の性格の変容と「氏」の慣習的受容、家族法の基本理念と「夫婦別氏」論議など)を整理し、「氏」の個人的性格への転換を踏まえた「夫婦別氏」制の導入が家族法のなかで隘路にはまっていることを指摘した。木幡提案は、「氏の個人的性格」を広げて現在の通称使用に「強制通用力」を認める立法を行い、婚姻前の「氏」の継続使用を戸籍法上承認する、という形で隘路の脱出を図るというものである。
保坂展人・世田谷区長インタビューは、条例ではなく区長決裁による「要綱」により2015年11月5日より「同性パートナーシップ宣誓の受領証明」を発行することによって、区はもとより地域社会が「男女婚姻カップル」「家族」と同等のサービスを提供することを要請している。その先には区内の「一人世帯」の増加(総人口の約半分)を踏まえて、社会の「多様性の承認」と「社会的包摂」をキーワードに「家族に近い友人同士のコミュニティ」を幾重にも組んで持続可能な社会とするという新しい「家族」論の構想がある。いずれの論稿も現代日本の現実に迫るメッセージを発信する。
次に、いわば第2特集というべき「特別研究会」報告と質疑の収録がある。永山茂樹報告と広渡清吾報告は、安保法制が強行成立しても徹底的にその廃止を求める論理と運動の構築を明確に示している。特に広渡論稿は「平和主義・立憲主義・民主主義の三位一体」的に闘われた安保法案反対運動を分析し、新しい政治参加の形態を「自律市民型民主主義」と特徴づけ、立憲主義・民主主義擁護は平和主義擁護の必要条件だが十分条件ではない、と問題提起した。そして9条を憲法改正できない「改正の限界」条項ととらえる永山報告に賛同し、より根源的な理解として「個人の尊厳」保障に立脚した「人民の社会契約としての憲法理解」こそが9条を基礎付けると強調した。熟読したい。
今年の「新春の集い」記念講演=糸数慶子参院議員「『オール沖縄』が切り拓く新しい道」は、沖縄の自己決定と「オール沖縄」の闘いこそが現実を変える、という力強い内容であり、参加者はあらためて勇気をいただくことができたと思う。もう1つ、再稼動した関西電力の高浜原発3号機(営業運転中)・4号機(トラブルにより緊急停止・冷温停止中)の運転停止仮処分決定(福井地裁2016.3.9、直ちに効力を発し3.10に3号機運転停止)という画期的な司法判断を受けて、石村修「ドイツの原子力政策の転換-日本との違いとその原因-」を比較の視座から読まれるよう強くお勧めしたい。
(本誌編集委員会本号編集責任者・古川 純)