投稿日: 2015/12/29 9:55:55
本号の特集テーマ「立憲主義と民主主義」は、安保法案=戦争法案の国会強行可決が、8割の反対世論をバックに国会前を連日埋め尽くした自律的市民の安保法案反対の民主主義的意思表示に真っ向から対立するのみでなく、今年になって社会運動のなかで広く定着した立憲主義(権力を拘束する憲法に基づく統治の運用)に反する違憲の暴挙であることを強く訴えるものである。
特集巻頭の山内敏弘「安保法=戦争法と平和主義・立憲主義・民主主義」は、この戦争法が何よりも第1に戦後70年間、私たちが維持してきた「平和」を破壊し日本を「戦争をする国」に導こうとする悪法であると糾弾し、立憲主義・法の支配に反すること(安倍内閣は5野党による憲法53条に基づく臨時国会開催要求を拒否した)、11本の法律案を2本の新法と束ねて提案し国会審議がきわめて不十分であり「熟議民主主義」に反すること、参議院委員会の強行採決は議事録に「議場騒然、聴取不能」とされるような異常事態であったことを指摘する。
さらに戦争法を廃棄し平和憲法を活かす道として来年の参議院選挙における野党協力を不可欠とし、沖縄のような9条を活かす一点での共闘を提案する。NPOの特別研究会「安保法制と立憲主義・民主主義」(12月11日)で廣渡清吾氏(専修大学教授)が「立憲主義・民主主義擁護は平和主義擁護の必要条件だが十分条件ではない」とし、「立憲主義のより根源的な理解、人民の社会契約としての憲法理解」に立って「平和主義・立憲主義・民主主義の三位一体的擁護」を強調したのは山内論考と同趣旨だと考えられる。
第2論考の仲地博「辺野古に見る自治と民主主義」は、強力な沖縄民意にもかかわらず日本政府の辺野古新基地造りへの固い姿勢と、民意を理由にオスプレイの佐賀空港配備の取り下げを「二重の基準」と弾劾することからはじめる。
翁長県知事と日本政府との間の入り組み・ねじれた争訟の構図に関して、とくに翁長知事の海底面の現状変更停止措置に対して防衛局長が国民=私人の立場で行政不服審査法に基づき農水大臣に審査請求と執行停止申し立て、知事の埋め立て承認取り消しに対し防衛局長が国交大臣に同様の申し立てを行ったことは、行政法学者が「荒業」と批判するように不服審査制度を濫用する不公正きわまりないものであり、法治国家に悖るものと厳しく批判する。沖縄でもかくして立憲主義の精神は踏みにじられているのである。
3番目の高橋若木氏(1980年生れ)インタビューは、民主主義という憲法に埋め込まれた「普遍主義的な理念」の回復の観点から現実の矛盾や問題の発見の必要を指摘し、新しい運動スタイルを発展させるSEALDsの若者たちを支えながら、今後の課題として「社会民主主義、議会を重視する立憲主義、言論の自由やマイノリティの権利推進に対する積極性という特徴を備え、マイノリティの権利運動やエコロジーの視点を取り入れながら敷居の低い大衆性を持った巨大政党」に類する政党、あるいは選挙協力を作り出す必要があると問題提起する。
「書評」では特集テーマに関連して榎透「立憲主義と民主主義の理解のために」が4冊の基本書の要点を紹介しているので各論考とともにぜひ参照していただきたい。
本特集には、NPOの歴史紀行(多摩自由民権運動と日本国憲法の源流である「五日市憲法草案」を訪ねる)の報告があり、またミャンマー総選挙におけるスーチーさんの国民民主連盟(NLD)の大勝利を受けた新政権樹立への道の寄稿がある。特集テーマと関連づけてお読みいただければ幸いである。
(本誌編集委員会本号編集責任者・古川 純)