投稿日: 2015/03/31 11:58:47
『FORUM OPINION』28号の特集テーマについて
-人口減少と地方再生-
「特集 人口減少と地方再生」の出発点は、増田寛也氏が主導してまとめた日本創生会議の報告書(「増田レポート」)である。2040年に「消滅可能性都市」が896都市、そのうち523都市が「消滅都市」と公表、話題を集めた。
同レポートで指摘されている「人口減少」、「地方再生」あるいは「東京への一極集中」は、日本の社会に根ざす構造的な問題である。すでに20年以上前から課題として認識されてきたものばかりである。1966年の丙午の合計特殊出生率1.58を下回る「1.57ショック」と社会問題化したのは1989年、地方再生のために竹下登首相(当時)が、全国の市町村に1億円ずつ交付した「ふるさと創生事業」を行ったのは1988年である。また、1990年には、東京への一極集中是正のため、衆参両院で「国会等の移転に関する決議」を採択している。
この25年は一体何だったのだろうか。出生率は2005年がボトム(1.26)で、その後、若干改善に向かっているものの、出生数の減少に歯止めはかかっていない。年間100万人を切るのは時間の問題となっている。認識すれど対策せず、無為無策。これまでの政策を唯々諾々と続けてきた結果が今日の姿と言うしかない。
とはいえ、事態があまりに深刻になってきたことで、世の中の目も出産、子育てに向いてきた。「保育園待機児童ゼロ」という指標は、保育内容の問題などもあるが、分かりやすいので行政の目標としてはうってつけと言えよう。政府の社会保障予算の中で「子育て支援」を大幅に増やしたことも評価できる。
しかし、これらはいずれもご都合主義のパクリで、理念がない。安倍政権は依然として伝統的な家族観の堅持を唱え、他方で新自由主義的な政策を打ち出している。これは介護の話だが、ある大学教授が、テレビで「(介護職員の賃上げ加算を実施したが)いつはしごを外されるか分からない」というコメントを寄せていた。1960年代から女性の労働力化を進める一方で出産、育児、介護と家事労働の社会化を前提とした包括的な家族政策を掲げ、政策を着実に積み重ねてきたスウェーデンとは大違いだ。
では、私たちはどう考えたら良いのか。最初にも述べたが、ことは日本社会の構造的な問題である。しかも、政府や政治に対する国民の不信は強い。政府の財政も深刻化しており、気前よくというわけにはいかなくなっている。
しかし、明るい材料は出てきている。阪神淡路大震災で注目を集めたボランティア活動は、東日本大震災でさらに広がった。持続的なNPOを増えている。また、全国の過疎地域で、地元の資源を生かした取り組みで成功事例も出てきている。地方に移住して結婚・子育てをする若者が増えてきていることも新しい動きだ。市民社会の中に変化が生まれてきている。
今回の特集では、千葉立也氏に加え露木順一氏に真正面から論じていただきました。
(本誌編集委員会本号特集責任者/蜂谷 隆)