投稿日: 2015/07/02 8:52:28
『FORUM OPINION』29号の特集テーマについて
-「戦後70年」-
今年が「戦後70年」に当たることを意識して、『FORUM OPINION』第29号(本号)と第30号(9月下旬発行予定)の2号連続で関連特集を組むことにする。この企画を練るために、編集委員会内で「戦後史」に関する勉強会を開いた。2月に山田勝、古川純、3月に安藤が報告し、それはそのまま本号の特集の一部になっている。さらに編集委員会・運営委員会企画の「戦後70年」研究会を開き、研究者を広く求めることも決めた。その第1回の講師に、『日本占領史 1945―1952 東京・ワシントン・沖縄』(中公新書、2014年)を出版された福永文夫を招いた(その後、同書は第16回「読売・吉野作造賞」を受賞した)。研究会は引き続き第30号まで数回を予定する。
「戦後70年」について議論しなければならないテーマは多い。本号に掲載できた論考、インタビユーに即していえば、第一は「戦後日本の原点」をどこに置いて「戦後70年」をとらえるかである。「占領期」を否定することで、戦後は「講和・独立から63年」とする主張、あるいは「現代」の出発は戦時期の改革にあるとする「総力戦体制論」が他方にある。福永は「戦後日本の原点」は占領にあり、その日本占領は①本土占領と②沖縄占領の2つに引き裂かれた。戦後日本政治は、憲法と安保という2つが引き寄せ合って一つにならない楕円のなかに展開してきたが、その楕円のなかに落ち込んだのが沖縄だった、と論じている。丸山眞男の「法的革命説」に対する松本健一の批判を山田が検討したのも、「戦後日本の原点」をどこに求めるかという議論の一環である。また、安藤の「総力戦体制論」をめぐる書評も、この系列のものである。
第二は、現在まで続く未決の課題について、その原因をあらためて「戦後」のあり方の中に探るという視点である。「戦後日本の外国人問題を考えることは、『外地人』問題を考えることである」という歴史を分析し、それらの問題が憲法学の中で次第に忘れられていったことを指摘した古川、被爆国日本がなぜ原発大国と両立してしまったのかを「原爆表象とジェンダー」の変遷の中に探ろうとした加納実紀代のインタビュー。特集枠ではないが、「沖縄の戦後史と平和を希求し続けた私」を語った糸数慶子のインタビュー。これらはいずれも、それぞれの課題の「戦後の70年」を考察したものといえよう。
第三は、「戦後70年」の現在、何が起きているかを考えることである。安倍内閣が「戦後レジームからの脱却」を叫び、集団的自衛権の行使を可能とする「安保法制」が今国会で強行されようとしている。これに関して、前田哲男の「戦争は平時から準備される」を収録できたのは、まことに時宜をえたものといえよう。とくに安保法制の国会提出前に、日米政府間で「日米防衛協力の指針」(新ガイドライン)が合意されたが、その分析から「安保法制―新法案」の本質をあぶりだしてみると、「安保法制は『日米防衛協力の指針』に実効性を担保する法制である」という指摘には、私も正直驚いた。前田が逐一分析した内容は戦慄すべきものである。
以上のように整理してみると、目次の上ではそのうち4本で「特集」を構成したが、内容上はその他のものも含めて「総特集」であったと言ってもよいと思う。その意味ではまことに内容豊富な特集号になったこと、寄稿していただいた皆さんに改めて感謝したい。(文中敬称略)
(本誌編集委員会本号特集責任者/安藤 紀典)