投稿日: 2014/04/17 4:48:39
『FORUM OPINION』24号の特集テーマについて
-「中国」はどうなっているのか―
先の東京都知選の結果で最も衝撃的だったのが、田母神候補が60万票余を得票し、若者の相当部分が彼を支持したことである。若者の右傾化は日本の将来を考えると由々しき問題と言える。そもそも右翼としてもさほど見識の高いわけで無い彼の雑駁な議論がどうして若者の心を惹きつけるのか? 1つは、若者の間に広がる格差と貧困がもたらす閉塞感であり、もう1つはメディアや政治家が喧伝することにより高められた台頭する中国や韓国への脅威論であろう。
前者はともかく後者は本号の特集と直接関係する。そもそも政府官邸筋やメディアから流される「中国脅威論」に国民の多くが過剰に反応するのは、中国に関する正確な情報が不足しているからである。とはいえ、一見あふれるほど流されている情報の何が真実であるかを見極めるのは「群盲像をなでる」に似てそうそう簡単なことではない。最終的には、情報を比較吟味しながら自らで判断するしかない。本号にはそれぞれ視点の異なる3つの論文を掲載した。
丸川知雄氏の「中国経済 ハードランディングするが、7%成長は可能」は、2013年12月14日に開催された経済分析研究会での、中国経済の現状と見通しに関する報告と質疑応答をまとめたものである。氏は好き嫌いの予断を持って中国を見るのではなく、この30年間に中国が達成した経済成長をそれはそれとして率直に評価する。そしてその成功の要因を数量的に分析し、将来予測を予測している。その結論が「ハードランディングするが、7%成長は可能」ということになる。
木島淳夫氏の「『改革の全面的深化』をめざす3中全会決定」は、昨年11月9~12日に行われた習近平体制の基本政策である3中全会決定の解説である。3中全会決定は、当面早急に解決しなければならない重要な問題として、経済、政治、文化、社会、生態文明、国防と軍隊の6つの方面から、改革の全面的深化を呼びかけた。党中央はそれなりに現状の問題点を把握しその対策は出しているが、経済の新自由主義へのさらなる傾斜と政治における思想の引き締め――経右政左――を氏は3中全会の特色とする。
平田芳年氏の「中国共産党統治の揺らぎと市民社会」は、中国の市民社会・市民運動に関する論考である。「08宣言」などラディカルな民主化運動は当局の弾圧もあって浸透しなかった半面で、憲法に保障された(はずの)基本的人権を守る裁判支援など個別の運動は草の根レベルで広がりを見せている。こうした農民・市民の権利意識の高まりは、経済発展の反映であり、今後ますます勢いを増すだろう。その面で政治・司法改革は待ったなしであり、その成否によっては共産党統治の正当性が失われる、というのが氏の見解である。
これら3つの論文は「中国をもっとよく知るために」で掲げられた推薦文献と併せて十分吟味に値するし、さらには、比較の基準ともなりうるものであろう。マスコミがふりまく「中国脅威論」に振り回されることなく、自分なりのしっかりした中国観を持つための参考にしていただければと思う。(本誌編集委員会本号責任者/牧 梶郎)