ヒトの腸内には多様な細菌類が共生し、宿主である私たちの健康状態を大きく左右していることが近年明らかにされてきています。一方で、ヒトやマウス以外の動物と共生微生物叢との相互作用については、基礎的な知見が不足しており、広大な科学研究のフロンティアが拡がっています。
本分野では、魚類を主な研究対象として、微生物叢の動態が宿主動物のパフォーマンスに与える影響を探っています。魚類の腸内にも、ヒトやマウスと同様に多様な共生微生物が生息しています。また、水中に棲息する魚類の生理は、水圏生態系内の微生物叢によっても左右されます。
これまでの研究から、魚類が棲息する水圏の微生物叢組成(種組成)が劇的に変動していることが明らかになってきました。魚類の健康にプラスに働く微生物叢組成とマイナスに働く微生物叢組成からなる多重安定性が存在し、これらの「代替安定状態」間の急激なレジームシフトが魚類の生理・生態に多大な影響を与えることがわかってきました。ビタミン類等の栄養素獲得に関わる細菌や免疫の活性化に関わる細菌が「コンソーシアム」を組むことで安定かつ機能的な魚類共生微生物叢が構築されている可能性に着目し、大規模DNAシーケンシングと統計物理学・機械学習・ネットワーク科学を融合した研究を展開しています。
こうした研究を通じて、多種生命システムの多重安定性が成立する根本原理が見出されていくと私たちは考えています。ヒト腸内細菌叢においても、生物叢組成が劇的に悪化するディスバイオーシス(dysbiosis)と呼ばれる現象が知られていますが、その背後にある物理学的過程は相互作用システムの振る舞いとして統一的に記述されるはずです。生物叢のレジームシフトを予測・制御する理論体系の構築と実験系における検証を進めていきます。