討議資料

討議資料:大学図書館をめぐる動き. 大学の図書館. 2010, 29(6), p.98-113.

討議資料は、本年8月28日(土)から 8月30日(月)まで大阪において全国大会を開催するに当たり、最近の大学図書館の諸問題について、常任委員会でまとめたものです。これを参考に事前の支部例会や当日の全体会において活発な議論が行われることを願っています。

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1.大学と大学図書館をめぐる新しい動き

昨年8月の総選挙により政権交代、鳩山内閣が誕生。それに続く事業仕分けでは、国立大学法人の運営費交付金について、「見直し」との判断が下されました。これに対して、国立大学協会が緊急アピール[PDF:190KB]を行うなどの動きがありました。4年制大学の4割が赤字という報道もありました。18歳人口の減少は続き、財政基盤は苦しくなる一方です。各大学も入試の多様化などの新入生獲得の努力をしています。魅力ある図書館が入学者の獲得につながるとよいと思われるのですが、実情はどうでしょうか。

年明けには、内閣府(官民競争入札等監理委員会公共サービス改革小委員会国立大学法人分科会)が国立大学法人の民間委託状況について調査・提言を行っています。その業務の対象には施設管理等のほかに図書館も入っています。外部からの業務の見直しが求められる中、図書館員がどのような業務をコアとして担ってゆくべきかを再考しなければならない時が来ているのでしょう(今年の全国大会では、3日目に業務委託についてのシンポジウムを企画しております)。

巷では派遣切りなどが問題となっていますが、大学図書館も外部委託などの労働力が増えてきており、他人事とは思えません。そのような状況の中で図書館員としてのキャリア形成についても考えていかなければなりません。各種研修や、セルフラーニング教材、NPO法人の認定試験、JLAの認定司書制度の検討などがありますが、キャリア形成にどのように生かせるでしょうか。

この厳しい状況の中で、多様化した学生、多様化した資料に対応していかなければならない状況は、ここ数年書いているところです。最近は出版界も苦しい状況ですが、電子ブックリーダについても新たな動きがあり、電子書籍が話題となっています。これをコレクションとしてどう扱うかなど、検討が必要でしょう。それに伴う読書環境の変化についても注目して行かなければなりません。大図研としても今年のオープンカレッジ(7月開催予定)では、電子書籍をテーマとしたワークショップを企画しました。

電子ジャーナルについても、現在のビッグディールの限界が言われるようになってきており、資料購入費が減少する中、今後のコレクション構築はさらに厳しいものになってゆくことでしょう。

それと関連して、機関リポジトリ整備の動き等は進んでおり、大学の研究成果としての論文公開の手段として、大学図書館の重要なコンテンツとなってきています。

このようにコンテンツが多様化する中で、これらを扱うシステムなどにも改善が必要となってきています。電子リソースの管理システム、OPACの新機能や、その他のWebシステムの開発動向にも注意してゆかなければなりません。

サービス環境も、ラーニングコモンズに見られるように、調査・研究から学習環境へと展開していっているように感じられます。この展開の中で図書館の目指すところ、我々のなすべきことが問い直されているように感じられます。

人のコミュニケーションも変化してきており、Twitterのような新コミュニケーション

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ツールが出てきています。図書館サービスへの利用については、有効かどうか検討の余地がありますが、コミュニケーションを扱う業種として、利用動向はフォローしておきたいところです(Twitterは、今年の全国大会や、オープンカレッジの広報で利用されています)。

このほかにも、著作権法、国立国会図書館のコンテンツ収集に関する法改正などにも注意を払ってゆかなければなりません。

最後になりましたが、国立大学では中期目標・中期計画の6年が終了し、次の6年に入ったことを書いておきます。この6 年で国立大学はどのように変わったのでしょうか。

2.1.国立情報学研究所(NII)をめぐる動向

(1)NACSIS-CAT/ILL 運用ガイドライン(案)

「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト最終報告(平成17 年10 月)」[PDF:60KB]のNII アクションプランに基づいて策定された「NACSIS-CAT/ILL 運用ガイドライン(案)」(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/pdf/guideline_draft.pdf)[PDF:44KB]が3月に公開され、7 月30 日まで意見募集が行われています(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/guideline/index.html)。本ガイドラインは「導入編」「共同構築編」「相互利用編」からなり、それぞれのガイドラインとその解説が提示されています。

(2) 電子ブック、特殊文字・特殊言語資料への対応

昨年10月に意見公募が行われた、リモートアクセスされる電子ブックに関する「取扱い及び解説」「コーディングマニュアル」が確定・公開され、4月から運用開始となりました。なお、これらについては、「次世代目録所在サービスの在り方について(最終報告)」[PDF:1/14MB]で提案されている取扱方法が確立するまでの暫定的な取り扱いになるとのことです。

電子ブックと同時に意見公募された特殊文字・特殊言語資料の入力規則案は、規則の決まっていない特殊文字・特殊言語資料の入力規則案で、キリル文字資料の取扱いが重要な意見聴取項目となっています。

(3)Webcat Plus リニューアル

Webcat Plusは従来の図書館OPACサービスという概念に捉われずに、本、作品、人との出会いを提供する新しいサービスとして生まれ変わる予定で、連想情報学研究開発センターを中心に、次期バージョンの新規開発が進められているところです。4月の公開が6月に延期されましたが、その登場が待たれるところです。なお、今回のリニューアルにより提供する情報、デザイン等の変更が生じるとのことです。

(4) 和図書書誌レコードの事前登録作業の試行

「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」[PDF:1.14MB]で検討された「NACSIS-CAT外に存在する書誌データの活用」に向けた取り組みとして、試行的に和図書書誌レコードの事前登録作業を1月から3月まで実施しました。丸善新刊案内の2010年2月号~ 4月号掲載分を元に、図書として扱えないものを除いた6,552件が登録されています。

(5)イベント関連

「NIIオープンハウス2009」は昨年6月11~12日に開催され、大学図書館関連イベントとして、「次世代学術コンテンツ基盤ワークショップ」として、「電子リソースアーカイブの展望」(72名参加)、「ひらめき、ひろがる、知の可能性(かたち)-CiNiiリニューアルとウェブAPIコンテスト-」(100名参加)、「ポスター展示」として「学術コミュニティを支える次世代のコンテンツ基盤を構築する:次世代学術コンテンツ基盤の構築」を行いました。「オープンハウス2010」は、本年6月3~ 4日に国立情報学研究所創立10周年記念イベントを併催、今回も「次世代学術コンテンツ基盤ワークショップ」として、「共に創る、電子ジャーナルアーカイブ(仮)-大学図書館、出版社、そしてCLOCKSS-」「い

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つでもCiNii、どこでもCiNii(仮)-ウェブAPIコンテスト第2弾-」が予定されています。NACSIS-CAT登録1億件突破を記念して、昨年2月に開催された記念講演会「共に創り、共に育てる知のインフラ~ NACSIS-CAT の軌跡と展望~」は記憶に新しいところですが、昨年10月にその記録をまとめた「NACSIS-CAT登録1億件突破記念講演会講演記録集」を発行、目録所在情報サービス参加機関宛に配布しました。

2.2. 総合目録データベースと遡及入力事業

平成21年度末の総合目録データベースの参加機関は1,234 機関、2010年4月24日現在の総合目録データベースの現状は、図書が書誌レコード9,095,497件(RECON 除く)、所蔵レコード105,551,491件、雑誌が書誌レコード318,308件、所蔵レコード4,504,260件となっています。なお、『NACSIS-CAT/ILL ニュースレター』29号(2010.2.26)において、最近、コーディングマニュアルを逸脱したレコード調整が見受けられることから、レコード調整のマナーについて注意喚起し、協力を求めています。

総合目録データベース遡及入力支援事業は、平成21年度においては、34機関46件の応募の中から、追加採択を含め14機関14件が実施となりました。内訳は「事業(A):大規模遡及入力支援」が11機関11件、「事業(C):多言語・レアコレクション」が3機関3件となっています(「事業(B)」は応募なし)。

2.3. その他

(1)研修事業関連

平成21年度「NACSIS-CAT/ILL ワークショップ2009」は12月2日~ 4日に開催され、「目録業務のマネージメント」をテーマに、13名の参加者が集中講義及び「目録業務外注仕様書の改訂」と「NACSIS-CAT/ILL セルフラーニング教材の改善案・新規教材原案の作成」を課題とした集中討議に取り組み、その成果物が公開されています(http://www.nii.ac.jp/hrd/ja/ciws/report/h21/index.html)。NII によれば「3日間のカリキュラムを通じて、異なる立場の担当者が主体的・集中的に協働作業を行い、問題解決するという「目録関連業務における機関内の中核的人材」養成にふさわしいワークショップになりました。」ということです(『NACSIS-CAT/ILL ニュースレター』29号)。平成22年度は12月8日~ 10日に行われる予定です。

平成20年度から「NACSIS-CAT/ILLセルフラーニング教材」による事前学習と講習会場での集合研修という構成で実施している目録システム講習会とILLシステム講習会ですが、平成21年度は双方合わせて29回実施、修了者は730名となっています。平成22年度も同様の構成で行われる予定ですが、新たな教材として、CAT編に「図書登録総論」「雑誌登録総論」が追加され、7教材となりました。これ以降も順次開発中とのことです。また、講習会実施にあたって講師公募を行っています。これまでは、総合目録データベース実務研修(平成18年度終了)受講者やNII関係者、講習会場近隣大学への協力要請等によって行われていたものですが、今年度は外部の人材を広く求める方針とするようです。

NACSIS-CATの実務能力認定試験を実施しているNPO法人の大学図書館支援機構(IAAL、http://www.iaal.jp/) は、第2回認定試験として11月に「総合目録-図書初級」第2回、第3回認定試験として5月に「総合目録-図書初級」第3回と「総合目録-雑誌初級」第1回を、それぞれ実施しました。昨年5月に実施された「総合目録-図書初級」第1回は受験者数216名に対して合格者は112名(合格率51.9%)、第2回は受験者数207名に対して合格者は78名(合格率37.7%)となっています。IAALは認定試験の他にも目録システム講習会等、NACSIS-CATに関するNIIの業務支援を行っています。

(2)NACSIS-CAT/ILL システム関係

昨年3 月にリプレイスしたNACSIS-CAT/ILL

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システムですが、目録関係では、出版コード・言語コードの更新(昨年6月)、図書書誌レコードの採番設定の更新と漢字統合インデクスの変更(11月)、等のシステム改修のほか、約2,600件の図書書誌データ整備を行いました。

(3)電子情報資源関連

電子情報資源管理システム(ERMS)の国内導入可能性について検討するため、Verde(ExLibris 社)と360 Resource Manager(SerialsSolutions 社)のERMS について、平成19年から行っている実証実験の成果をまとめた『電子情報資源管理システム(ERMS)実証実験平成20 年度報告書』が昨年6月に刊行、Webでも公開されました(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/pdf/erms_report_h20.pdf)[PDF:2.6MB]。報告書は、9機関による実証実験報告、オブザーバ参加している3機関の導入事例報告、北米におけるERMSの活動動向調査、ERMSをめぐる標準化の動き、ERMSと目録所在情報サービスなど、内容については以下の通り8章で構成されています。

1. はじめに

1.1 ERMSとは

1.2 平成19年度ERMS 実証実験の概要

1.3 平成20年度ERMS 実証実験の概要

1.4 ERMS 実証実験活動報告

2. 各大学における実証実験報告

2.1 北海道大学附属図書館

2.2 東北大学附属図書館

2.3 筑波大学附属図書館

2.4 千葉大学附属図書館

2.5 名古屋大学附属図書館

2.6 京都大学附属図書館

2.7 九州大学附属図書館

2.8 大阪市立大学

2.9 農林水産省農林水産研究情報総合センター

3. 導入事例報告

3.1 慶應義塾大学

3.2 早稲田大学図書館

3.3 札幌医科大学

4. 北米におけるERMSの活動動向調査

5. ERMSをめぐる標準化の動き

6. ERMS紹介

6.1 Verdeの最新動向/ 利用統計機能

6.2 Serials Solutions Resource Manager Consortia Edition のご紹介

6.3 その他のERMS

7. ERMSと目録所在情報サービス

7.1 電子情報資源の管理

7.2 国内ナレッジベース

7.3 ERDB

8. ERMS(電子情報資源管理システム)文献リスト

実証実験の参加機関は大規模な大学図書館が大半ですが、参加機関それぞれのERMSの運用上・システム上の問題点の検証・分析、ERMSに関する要望、図書館システムやリンクリゾルバとの連携の検証等がまとめられた本報告書は、ERMSの理解や導入の検討において、豊富かつ有益な情報を提供するものといえるでしょう。

3.利用サービス

この1年、に限った話ではないのですが、利用サービスの特徴ある動向としてまず「学習支援」を重要なサービスとして位置づけ、様々な支援策を打ち出す図書館が増加しつつあるということが挙げられると思います。

東京女子大学では2008年4月に図書館を改装して、PC50台を設置したメディアスペースや「会話をしながらのグループ学習」「プレゼンテーション」「飲食」をそれぞれ可能にしたスペースを設け、また「学習コンシェルジュ」「システムサポーター」と呼ばれる院生・学生を配置して様々な支援を開始しました。その結果、利用者数が2008年度は対前年度比約30%増加、2009年4-6月も10%近く増加したと報じられています。(1-2)

一方、山形大学では今年(2010年)4月から「学生が主体的に学べるハイブリッド図書館」をコンセプトとしたサービスを開始し、

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第一弾として学生用PC200台、電子ブック3,000タイトルを導入したとのことです。(3)

その他、明治大学がオンラインナレッジサービスの一環として、利用者自身の読書履歴管理と資料に関するレビューを可能とした「読書ノート」機能を2009年11月に公開、法政大学では専門家から文章作成と口頭発表の要領を学べる「ライティング・プレゼンテーション講座」を2009年度に開催するなど、各大学で特色あるサービスが展開されています。(4)

ところで、学習支援といえばラーニング・コモンズ(LC)を思い浮かべる方も多いでしょう。LCを開設した、もしくは計画中の図書館もここ2-3年で増えつつあるようです。しかし一方、LCと呼ばれる施設の中には10人程度収容の部屋にPCを設置して利用も予約制という、従来の「グループ学習室」的な場とさほど変わらない事例も見られ、名称だけが一人歩きしている感もあります。

改めて言うまでもなく、LCはあくまでも「学習支援」の1つの形です。先行事例に倣うだけではなく、そのサービスや場の提供について検証し、実効性のある学習支援の確立を目指す必要があるでしょう。

もう一つの傾向として、図書館を「くつろげる、気軽に利用できる」空間として提供するという点が挙げられるのではないでしょうか。前述のLCなどのサービスもそうですが、例えば金沢大学附属図書館では、入り口付近に設置しているブックラウンジを飲食可能とし、その中にカフェ「ほん和かふぇ。」をオープンしたと発表しています。(5)ケーキやサンドイッチなどを飲食でき、一般の方も利用可能とのことです。

このようなサービスの展開は、今後ますます増えていくと予想されます。大学の特性に合わせ、いかにオリジナルのサービスを提供していくかということを考えていく必要があるでしょう。

(1)「図書館チェンジ 気楽に『滞在型』」朝日新聞2009/9/9 朝刊 都区内面

(2)東京女子大学図書館ホームページ http://library.twcu.ac.jp/

(3)山形大学図書館 トピックス2010/4/5 http://www.lib.yamagata-u.ac.jp/news/oshirase_alllib/oshirase100405.html

(4)大学教育と情報 18 巻4 号(通巻129) 特集:図書館による学習支援力 http://www.juce.jp/LINK/journal/1002/mokuji.html

(5)金沢大学附属図書館ホームページ 「 ほん和かふぇ。」オープニング・セレモニーを開催 http://www.lib.kanazawa-u.ac.jp/news/2010/0407.html

(以上 URL 参照 2010-04-26)

4.電子的サービス

4.1. 国立情報学研究所(NII)の動向

国立情報学研究所のNACSIS-CAT/ILL以外の動向として、4月にCiNii(http://ci.nii.ac.jp/)がバージョンアップされ、著者検索(ベータ版)等の機能が追加されています。著者検索とは「CiNiiデータベース中の全論文の全著者に対して機械処理によるIDを発行し、ID ごとに論文リストを表示する機能」とのことです。この機能ではまた、CiNii内部だけでなく、J-GlobalやGoogle Scholar 等の外部サイトの検索も可能になっています。

昨年4月に正式公開された学術機関リポジトリポータルJAIRO(http://ju.nii.ac.jp/)は、その後、国立国会図書館デジタルアーカイブポータルPORTAの統合検索対象アーカイブに追加されるなど発展を続け、2010年4月29日現在、149機関898,811件のデータが登録されています。

昨年7月21日には、WebcatPlusで実装されている連想検索エンジンGETAの新バージョンGETAssoc(「ゲットアソック」または「ゲタソックリ」)が公開されました(http://getassoc.cs.nii.ac.jp/?GETAssoc)。実装例はまだないようですが、「複数データベース間の横断検索が可能」、「コンテンツの権利保護が

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可能」「連想検索アプリケーションの構築が容易」といった特徴が挙げられています。

4.2. 国立国会図書館(NDL)の動向

国立国会図書館では、昨年9月にリンクリゾルバを使用してNDL-OPAC(http://opac.ndl.go.jp/)と外部データベースとの連携を開始しました。リンク先になっているのは、NDL が契約している電子ジャーナル、データベースの他に、オープンアクセスジャーナル、機関リポジトリ、二次情報データベース等です。NDL契約のデータベースは館内のみの利用ですが、外部からのアクセスでも各図書館の契約状況によってはリンク参照でき、また、無料で公開されているリソースについてはどこからでもリンク参照可能となっています。

昨年11月4日には、(社)日本文藝家協会、(社)日本書籍出版協会等により日本書籍検索制度提言協議会が設立されました。これはNDLが電子化する書籍データをインターネット配信する仕組みの検討を目的としています(http://current.ndl.go.jp/node/15171)。これに対し、同館の長尾館長は「国民の共有財産と言える書籍の自由な検索と活用に道を開こうとするもので、歓迎すべきものであります。」(http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2009/statement1104.pdf)との声明[PDF:172KB]を発表しています。

今年4月からは、昨年7月に改正された国立国会図書館法に基づき、公的機関によるインターネット資料の制度収集を開始しています(http://warp.da.ndl.go.jp/)。これに伴い、事業の名称が「インターネット情報選択的蓄積事業(WARP)」から「インターネット資料収集保存事業」へと改称されています。今後、公的機関のインターネット資料は、同館の収集用プログラム(クローラー)による自動収集の対象となり、自動収集できないが収集する必要性の高いものについては、各機関は同館からの求めに応じて提供する義務を負うことになります。各国の国立図書館と足並みを揃え、本格的なウェブアーカイビングへの一歩を踏み出したといえるでしょう。

4.3. 図書館システム

既成のパッケージ・システムへの疑問から、システム開発の主導権をベンダーから取り戻すことを目的とするProject Next-L(http://www.next-l.jp/)ですが、その活動成果としてオープンソース・ソフトウェアEnju(http://wiki.github.com/nabeta/next-l/)が公開されました。これはProject Next-Lでの議論をもとに実装を行っている図書館システムで、FRBRモデルの採用、ファセット検索、ソーシャルタギング、WebAPIへの対応等を特徴としています。動作デモも可能になっています(http://enju.slis.keio.ac.jp/)

各図書館の動向としては、九州大学附属図書館では昨年12月に、慶應義塾大学メディアセンターでは今年4月に、図書館システムをリニューアルし、次世代型OPACやMyLibrary 機能の提供を開始しています。このうち、九州大学附属図書館のMyLibraryは、貸出履歴からのレコメンド機能等を備えています(http://www.lib.kyushu-u.ac.jp/research/20091201_opac_ml.html)

レコメンド機能のようなサービスは、マイニング技術によるものですが、4月に、Webサービスの技術から図書館の未来を探る勉強会「マイニング探検会」(http://www.mi-tan.jp/)が発足し、今後の活動が注目されるところです。

3月には、日本全国各地にある図書館の資料について所蔵・貸出状況を検索できるサービス「カーリル」(http://calil.jp/)が公開されました。公共図書館を中心として4,300館以上を対象に横断検索でき、最初に希望の地域を選ぶと、近くにある複数の図書館から蔵書を探すことができます。Amazon と連携していて、図書館に所蔵がなければ購入も可能となっています。コミュニティをSNSのMixi内に設置するなど独自の展開をしています。

4.4.Twitter の広がり

Twitter(http://twitter.com/)は2006年に米国Obvious社(現Twitter社)が開始した

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インターネット上のサービスですが、個人だけでなく、企業や公的な機関にまで急速な広がりを見せています。

ブログ・SNSとチャットの中間のようなシステムを持つといわれ、機関にとっては、一方的な広報手段としてではなく、ツイート(つぶやき)に対するフォロー等によるコミュニティ形成力が注目されているようです。

国内では、いくつかの先行する図書館の他に、国立国会図書館(http://twitter.com/ca_tweet)が1月、国立情報学研究所(http://twitter.com/jouhouken) が3月から公式のTwitterを始めています。

Twitter発祥地の米国では、議会図書館(LC)が、公開されたツイートの全てをアーカイブ化する方針を発表しています(http://www.loc.gov/tweet/how-tweet-it-is.html)

4.5. 電子ブックの動向

学術情報の分野では、3月にeBookの「老舗」であるNetLibraryがOCLCからEBSCOに売却されました。利用環境の変更はなく、引き続きNetLibraryプラットフォームから利用できますが、将来的には、EBSCOhost上で、Academic Search等と統合的に利用できる方向を目指しているようです(http://www.ebsco.co.jp/NetLibrary.html)

Googleの動向としては、昨年Googleブックスをめぐる著作権問題で日本国内も騒がせましたが、電子ブックの販売サービスGoogleEditionsを2010年から提供すると発表しています(http://news.cnet.com/8301-1023_3-10375785-93.html)

Amazon は、昨年10月から電子ブックリーダーKindleの販売を日本でも始めました。現在、直接日本語書籍への対応はされていませんが、Kindle向け日本語書籍を配信する会社も出現しています(http://www.soryu-sha.jp/bunko/)。また、英国図書館と連携して、同館がデジタル化した19世紀の哲学書、文学書等をAmazonのプリントオンデマンドサービスCreateSpaceとKindleで提供する計画があるようです(http://www.bl.uk/news/2010/pressrelease20100223a.html)

4月にはAppleのiPadが米国で発売になりました。iPadは汎用デバイスであり、電子ブック専用ではありませんが、Kindleに続く有力なデバイスが発売されたことで、日本でも「電子書籍元年」になるのではないかともいわれています。

このような状況の中、3月に日本電子書籍出版社協会が設立されました(http://www.ebpaj.jp/)。現在31社が集まり、「電子出版事業に関する制作、流通、サービス等の調査研究」等を行うとのことです。

4.6. 電子ジャーナル、オープン・アクセスに関する動き

昨年7月に、文部科学省は『大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)』を発表しました(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1282987.htm)。この中で「電子ジャーナルの効率的な整備」と「学術情報発信・流通の推進」が謳われています。

「電子ジャーナルの効率的な整備」のためには、

・ 大学ごとの需要や財政状況等に対応できる柔軟で持続性のある新たな契約形態について検討し、出版社との契約交渉を行う必要

・ 大学間のコンソーシアムが主体となって契約交渉を行い、最終的な契約は各大学が個別に行っていくことが適当

・ 学術情報流通に精通し、契約交渉に係る専門性を有する者の育成・活用を検討することが必要

・ 国公私立大学全体を包括する交渉のための組織の在り方などについても検討する必要等の指摘を行っています。

また、「学術情報発信・流通の推進」については、

・ 我が国の学術情報発信の強化のため、オープンアクセスを一層推進する必要があり、このため、国立情報学研究所が実施する機関リポジトリ構築連携支援事業SPARCJapan

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科学技術振興機構が実施するJ‐STAGE等の関連する事業の充実を図りながら、着実に実施していく必要

・ 欧米では研究助成機関による助成を受けた研究成果のオープンアクセスを義務化する動きがあり、我が国においても研究成果となる学術論文等のオープンアクセスの義務化も含めた対応の強化に向けた検討が必要

・ 研究者がオープンアクセスの意義を理解し、自らの研究成果の発信に積極的に取り組むよう、オープンアクセスの意義を広め、研究者の意識改革を図っていくことが重要

等としています。

国立大学図書館協会(http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/)は、昨年6月に組織を統合・再編し、電子ジャーナル等の新たな契約モデルの構築及び学術情報流通の改革等の諸課題について検討することを目的として、特別委員会を設置しています。特別委員会の下には、新しい契約モデルを策定するための中長期モデル策定作業部会、及び大手3社(Elsevier、Springer、Wiley-Blackwell)以外の出版社との協議を担当するための実務担当者グループが設置されています。

このうち、中長期モデルの策定については、現在の電子ジャーナル契約の主流となっている包括的パッケージ契約(ビッグディール)に替わる新しいモデルの策定を開始し、代替モデルとして、従来のビッグディールを踏襲したモデル、サブジェクト・コレクションの組合せモデル、タイトル単位での購読モデル等について検討を行っています。また、ビッグディールから離脱した後の補完システムとして、ILL、外国雑誌センター館、アグリゲータ系電子論文提供サービス(EBSCOやProQuest等)、バックファイル整備、オープンアクセス等について検討しています(http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/j/projects/sirwg/katsudo_21_11.pdf)[PDF:24KB]。

昨年12月24日には、国大図協主催により、シンポジウム「学術情報流通の改革を目指して3 ~ビッグディール後の電子ジャーナル契約のあり方を探る~」(於:東京大学)が開催され、今後の活動について、以下のようなロードマップ原案が提示されました。(尾城孝一, 星野雅英. 学術情報流通システムの改革を目指して: 国立大学図書館協会における取り組み. 情報管理. 2010, 53(1). http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/53/1/53_3/_article/-char/ja)

(1)フェーズ1(~2011年)

現在のビッグディールを維持・継続することを基本とし、同時に中期的な対応方策の検討を進める。具体的には、大学の財政状況や需要に応じた柔軟な契約モデル(中期的モデル)の策定と出版社協議、バックファイルの整備等のセーフティーネットの構築に向けた取り組み、コンソーシアムの在り方の検討などが含まれる。さらに現在の商業出版社に過度に依存したシステムに替わる新たな学術情報流通システムのビジョンを策定する。

(2)フェーズ2(2012年~2019年)

フェーズ1において検討した中期的な対応方策を実施する。それと合わせて、長期ビジョンの実現に向けた検討と段階的な実施を進める。

(3)フェーズ3(2020年~)

2020年までに新たな学術情報流通システムを実現することを目指す。

『情報の科学と技術』(2010, 60(4))では「オープンアクセス」を特集しています。倉田敬子「オープンアクセスとは何か」は、その概念を再検討しています。生物医学分野におけるオープンアクセスの現状を分析しながら、それが必ずしも新しい理念と技術による機関リポジトリやオープンアクセス雑誌によって主導されているわけではないこと等を指摘しています。佐藤翔・逸村裕「機関リポジトリとオープンアクセス雑誌」は、両者の現状を分析して、オープンアクセス運動の契機となったBudapest Open Access Initiative(BOAI)の示す理念を実現しているかを考察するものです。

Directory of Open Access Journals

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DOAJ:http://www.doaj.org/) の日本版として2008年に公開されたDirectory of Open Access Journals in Japan(DOAJJ)ですが、その後継の「日本語学術雑誌情報源ナビ」(JJRNavi)が実践女子大学図書館のサイトで公開されています(http://jcross.jissen.ac.jp/atoz/index.html?b_type=AtoZ)。約1万2千件の日本語無料電子ジャーナル、雑誌の目次掲載ページ、主要二次文献情報データベースに収録の雑誌の索引化・抄録化情報を提供するものです。雑誌検索だけでなく、二次文献情報データベースの文献検索から、当該電子ジャーナルへと繋ぐリンクリゾルバの機能も提供されています。

5.機関リポジトリ

機関リポジトリに関する2009年~2010年にかけての主な動向としては、国立情報学研究所(NII)のCSI事業、デジタルリポジトリ連合(DRF)の活動、オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)の発足、リポジトリランキングの公表等を挙げることができます。

NIIは、大学等と連携し「最先端学術情報基盤整備(CSI)」の一環として機関リポジトリの構築、連携の促進に取り組んでいます。CSI事業はこれまで、第1期(2005年度~2007年度)、第2期(2008年度~2009年度)を通じて93機関等と契約を締結しました。その結果、機関リポジトリ数は117(共同リポジトリによる設置を含めた機関数は162)、本文コンテンツ数は58万件に達しました(1)。2010年2月には京都大学の京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI)の収録数が5万件を超えるなど、個々の大学のコンテンツの拡充も進んでいます。

現在、CSI事業は学術コンテンツのオープンアクセスを進展させ研究教育の活性化を図ることを目的に、第3期(2010年度~2012年度)に入りました。第3期では3つの領域で公募が行われました。

領域1は、機関リポジトリの初期コンテンツの作成を目的としたコンテンツ構築支援です。図書館等で所蔵している貴重資料や広報資料の電子化は、領域1の対象外となっています。また、今回の領域1では、第2期のような重点コンテンツ(学位論文、科学研究費補助金研究成果報告書、テクニカルレポート、紀要論文等)の設定はされませんでした。

領域2では、先導的プロジェクト支援として、機関リポジトリの構築連携、機関リポジトリの高度化及び付加価値向上を目的に「コンテンツ拡充に関するもの」(4プロジェクト)、「機関リポジトリ高度化に関するもの」(8プロジェクト)という2つの研究テーマのもとに、12のプロジェクトが決定する予定です。

そして領域3では、第2期までに得られた経験・知識・ノウハウ等を共有し、機関リポジトリの裾野を拡げることを目的として「地域型共同リポジトリの活動支援」「人材育成(研修)」「アドボカシー活動(図書館内、研究者、大学等の機関、学会等の機関外)」「国際連携」「NIIが提供するリポジトリシステム基盤の活用」「その他」というテーマの中で、具体的な学術情報流通コミュニティ活動支援の提案の募集が行われました。第3期事業は、採否決定、業務計画書提出を経て契約が締結され、8月1日より開始の予定です。

NIIでは他にも、日本の学術機関リポジトリに蓄積された学術情報(学術雑誌論文、学位論文、研究紀要、研究報告書等)を横断的に検索できる学術機関リポジトリポータルJAIRO(Japanese Institutional Repositories Online)の提供も行っています。JAIROは2009年5月に機械翻訳機能を搭載し、6月にGoogle からのJAIROコンテンツの検索を可能にし、8月には国会図書館デジタルアーカイブポータル(PORTA)の統合検索対象アーカイブに追加される等、発展を続けています。

他方、NIIのCSI事業の活動の一つであったデジタルリポジトリ連合(DRF)は、2009年11月11日に、図書館総合展で第5回DRFワークショップ(DRF5)「2009年、いま改めてリポジトリ」を開催しました。「リポジトリがより活用されるために」「これから始める機

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関のための隣のリポジトリ事情」「今さら訊けないリポジトリの A to Z」という3つのセッションが開かれ、リポジトリを使う側からのメッセージ、リポジトリを設置した機関の事例報告、そして、リポジトリの構築準備や構築したばかりのリポジトリのコンテンツ収集方法等に関するQ&A が行われました。

その後、2009年12月3日~4日の2日間にわたり、東京工業大学でデジタルリポジトリ連合国際会議2009(DRFIC2009)を開催しました。DRFIC2009は「オープンアクセスリポジトリの現在と未来-世界とアジアの視点から-」と題したテーマで、2つの基調講演と「成熟と展望:電子環境下の科学・研究・出版」(講演3本)、「アジア太平洋地域における機関リポジトリの現状と展望」(講演3本)、「多様性への姿勢」(ポスターセッション)という3つのセッションが開催され、参加者数は174名(外国人参加者数8名、日本人参加者数166名)でした。

そして、2010年2月5日には、北海道大学附属図書館で第6回DRFワークショップ(DRF6)「これまでの5年間、これからの5年間」(デジタルリポジトリ連合主催、ShaRe、SCPJ、IRcuresILL、ROAT、UsrCom 共催)を開催しました。このワークショップは、2期5年間にわたるDRF活動を総括した「これまでの5年」と、新体制の発足に伴う今後の方針を議論した「これからの5年」という2つのセッションで構成され、セッション終了後には新体制DRFの発足式が行われました。今後DRFは「デジタルリポジトリ連合要項(2010年2月5日より施行)」に基づいて運営されることになりました。新体制DRFは、発足時に108機関が参加し、現在は118機関(2010年5月18日現在)が参加しています。また、学術情報流通の現在と未来を考える雑誌として、「月刊DRF」の刊行も始まりました。

海外に目を向けると、2009年10月21日にオープンアクセスの実現を支援するための国際連携組織「オープンアクセスリポジトリ連合」(Confederation of Open Access Repositories(COAR))が発足しました。COARは欧州委員会第7次基本計画に基づく「欧州における学術研究のためのデジタルリポジトリ基盤構想」(Digital Repository Infrastructure Vision for European Research(DRIVER)プロジェクトを中心に、世界各地の研究者、図書館関係者により、設立が検討されていた組織です(2)。オープンアクセスを推進する、世界の48の組織によって構成されています(2010年4月末現在)。COAR は、2010年3月2日にスペイン国立通信教育大学で第1回の総会を開催しました。日本からはDRF、NII、MyOpenArchive の3機関が参加しました。第1回総会では当面の活動方針が話し合われ、当面の活動課題として「普及啓蒙」「情報共有(好事例の蓄積と共有等)」「相互運用性(資源識別子、統計等)」「人材養成(リポジトリ管理者研修等)」「世界のメタデータ収集」の5項目が設定されました(3)。

また、世界のリポジトリランキングを発表しているWebometrics Ranking of World Universities が、2010年1月に最新ランキングを発表しました。機関リポジトリランキングによると、1位はSmithsonian/NASA Astrophysics Data System で、2位はフランスの国立科学研究院(CNRS)等が中心に構築したオープンアクセスリポジトリであるHALとなっています(2009年はランキング1位)。日本は、25位に京都大学、44位に九州大学、54位に早稲田大学、57位に千葉大学、59位に金沢大学、60位に東京大学、63位にお茶の水女子大学、64位に長崎大学、73位に名古屋大学、75位に岡山大学、99位に北海道大学と、11のリポジトリがトップ100に入っています。全体のランキングでは、2008年、2009年と引き続き3年連続で物理学分野を中心としたプレプリントサーバのarXivが1位でした。

最後に、国内の機関リポジトリは、CSI第2期事業を経て、リポジトリの普及、コンテンツの拡充といった、基盤整備が進みました。それを引き継ぐ形となる、CSI事業の第3期の開始や、CSIの一部から派生したDRFが

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新体制を確立する等、機関リポジトリを取り巻く環境は日々発展を続けています。さらに、DRFICの国際会議の開催やCOARへの参加、CSI事業3期のテーマの一つとして国際連携が設定されるなど、今後は機関リポジトリを通じての国際協力の動向も注目されます。

【引用文献】

(1) 学術機関リポジトリ構築連携支援事業(2010年2 月末現在). http://www.nii.ac.jp/irp/2010/03/csi_kobo_2010.html, (accessed 2010-05-28).

(2) 杉田茂樹. E992 - オープンアクセス支援のための国際連携組織“COAR”が発足. カレントアウェアネス-E. 2009, 161. http://current.ndl.go.jp/e992, (accessed 2010-06-25).

(3)【特集1】COAR 総会. 月刊DRF. 2010, 2, p.1. http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=% E6% 9C% 88% E5% 88% 8ADRF&openfile=DRFmonthly_2.pdf, (accessed 2010-05-28).

【参考文献】

内島秀樹. デジタルリポジトリ連合国際会議2009開催報告. SPARC Japan NewsLetter. 2010, 4, p.1-5. http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/newsletter/pdfper/4/sj-NewsLetter-4-2.pdf, (accessed 2010-06-25).[PDF:1MB]

・土出郁子. これまでの5年、これからの5年. 大学の図書館. 2010, 29(4), p.59-60.

【参考ホームページ】

学術機関リポジトリ構築連携支援事業. http://www.nii.ac.jp/irp/, (accessed 2010-05-18).

KURENAI収録論文数が5万件を突破!. http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/wordpress2/index.php?p=40, (accessed 2010-05-18).

Digital Repository Federation. http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/, (accessed 2010-05-18).

COAR-Confederation of Open Access Repositories. http://coar-repositories.org/, (accessed 2010-05-18).

World Universities' ranking. http://repositories.webometrics.info/top400_rep_inst.asp, (accessed 2010-05-18).

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6.組織運営

業務委託と市場化テスト

文部科学省学術情報基盤実態調査から、「大学図書館員の数」について、10余年ほどの変化を整理してみると表1のとおりとなります。また、大学総経費に占める「図書館人件費」についても同様に整理をしてみると、表2のとおりとなります。

全職員数が13,000人を割り込みました。国公私いずれも専任職員よりも「臨時」職員数のほうが多くなっています。

さらに試みに私立大学について状況をグラフ化してみると、以下のことが鮮明になってきます。

<表1:大学図書館職員数の推移>(略)

<表2:図書館人件費>(略)

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<表3:私立大学図書館数>(略)

(1)専任職員は減り続けている。

(2)臨時職員は増加してきていたが、2005年度をピークとして減少に転じている。

(3)専任/ 臨時の比率は2005年度に逆転した。

(4) 全職員数も2005年度をピークに減少に転じている。

また、大学総経費に占める人件費の割合は1%を割り込みました。2006、2007年度については、大学総経費自体が増えた中で実支出額及び割合が減ったということに注意すべきです。

この間、私立大学図書館の数はおおむね前年比で増えてきています(表3)。したがって、必要とされるマンパワーが少なくなったということはいえないと思われます。そうではなく、ここには減った人員をカバーする手段として業務委託が選択されていることの影響を見て取ることができます。

業務委託という手法が、それが部分的であれ全面的であれ図書館運営の選択肢として検討されるときには、それが自大学にとってのみ望ましい(あるいはやむを得ざる)ものとして選択がされるということができるでしょう。そこで考慮されるのは自大学の状況だけです。

しかし、図書館の運営は自大学だけで完結するものでないことはことさら指摘するまでもありません。ILL(Inter Library Loan)ひとつとってもそれは容易に想像できることです。そうしたネットワークの弱体化は、まわりまわってそれぞれの図書館のパフォーマンスの低下をもたらすことにもなりかねません。鈴木は、起こりうるこうした事態を「図書館コミュニティの崩壊」と呼び、警鐘を鳴らしています(1)。

国立大学では、大学経営への民間的手法の導入を検討すべく、「市場化テスト」が内閣府によって行われようとしています。内閣府公共サービス改革推進室の文書「国立大学法人の施設管理業務、図書館運営業務等への評価の総括」(http://www5.cao.go.jp/koukyo/kanmin/kokudai/2010/0408/100408-2-1-1.pdf)[PDF:450KB]によれば、施設管理運営業務、就職・キャリア支援業務と並んで、図書館業務について以下のような言及がされています。

「国立大学法人において、サービスを包括的

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に民間委託している大学は少なくなく(略)、夜間休日の開館業務を包括化した民間委託の実施、・・・経営効率の改善への意識は着実に高まっている」「一方で、『図書館運営は大学の教育・研究活動と不可分』との理由で、『民関委託を進める一般の図書館とは異なり、民間委託はなじまない』とする・・・大学も数多く存在する。・・・この点に関し、すべての図書館運営の事務を『図書館運営は大学の教育・研究活動とは不可分』とするのは問題であり、個々の大学で『不可分』とする事務を明確に線引きしていく必要があるものと考える。大学では大学が教育研究費を拡大していくためには経費を節約しなければならないことを念頭に、大学当局のマネジメントが強いリーダーシップを発揮し、職員の意識改革を行い、従来の考え方にとらわれずに民間との役割分担の在り方について継続的な見直しを行っていくことが必要である」

図書館業務を委託することについては一方的に礼賛することも、また逆に否定することもできないでしょう。たとえば開館時間・日の延長・拡大は業務委託することによって実施しやすくなったというところは少なくないのではないでしょうか。しかし、業務の大学内における蓄積がきわめて難しくなったり、契約書に記されている水準の業務が行われていないといった問題が発生している図書館もあるということも聞こえてきます。さまざまな「現実」があるのです。そうした、目の前で起きている現実(事実)に目をつぶった認識と議論からは何も生まれてきません。上記の内閣府担当部署の指摘は経費節減に「益」ありとする考え方に貫かれています。しかし、必ずしも「経費」といった数字に表れない負の側面がありうる(ある)ことへの顧慮はされていないように思われます。

業務委託については、直接の指揮命令ができないといったことなどの法的な理解はこの数年で進んできているように思います。それを超えて次は、業務委託によって私たちは何を獲得し、何を失ったのかについて、冷静な評価と対応を始めるべきではないでしょうか。

(1) 鈴木正紀. "私立大学経営と図書館". 構造的転換期にある図書館:その法制度と政策. 日本図書館研究会編集委員会編. 日本図書館研究会, 2010, p.84-106. (初出: 図書館界. 2008, 60(4), p.254-265.)

7.出版・流通

数年来続けてきた文章を今年も同じように書きたくはなかったのですが今回も再確認する数字でした。2009年の出版物売上はとうとう2兆円を割り4.1%減の1兆9356億円になりました。出版点数は少しずつ増えて8万点弱です。書籍返品率は4 割を超えました(出版科学研究所による)。1996年からの長期低落傾向は今年もやまず書店の数も減る一方です。要は再販制度と委託販売がセットになった日本の書籍と雑誌の流通販売システムがうまく機能しなくなったのです。増減の波はあるが総じて減ってはいない国や拡大基調の国もある世界の各国にくらべ、日本はここ十数年売上高が減少し続けています。返品率も悪くなる一方で業界全体が縮小しているのです。これが異常だというところから出発しなければなりません。もちろん出版社8社による35ブックスや小学館など1社単独での責任販売制(一種の手直し)も試みられていますが通常の書店ルートでの減少はやみません。根本的な改善をはかる必要があります。その中ではインターネット書店のアマゾン・ジャパンが飛躍的に伸びています。売上高を公表していないので推測になりますが書籍の売上が千億円を超えることは確実と思われます。紀伊國屋書店に匹敵する規模です。アメリカでのアマゾンの勢いもすごいのですが日本の書籍の販売に関しては再販制度と委託販売システムの疲労の間隙に乗じたとしか言いようがありません。実売書店の健闘を祈るばかりです。

電子書籍端末ではキンドルがアメリカで

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300万台以上売れ、iPadは好調な滑り出しで日本での販売が遅くなりましたがこの原稿を御覧になる頃には触ったことがある人が多いに違いありません。

電子書籍は数年後には既存の紙媒体での流通を脅かす存在になることは間違いありませんが現在はまだ売上高にはほとんど関係していません。できればこの間に電子書籍流通に関するインフラを整えていく方向に向かうといいのですが。何時までもケータイだけの電子書籍という状況ではないと思います。

トピックとしてまずあげられるのは「1Q84」でしょう。2分冊の本が200万部以上売れ、3冊目が初刷50万部のあと増刷を重ねています。村上春樹というのはとてつもない作家かもしれません。

グーグル検索和解問題も忘れるわけにはいきません。とりあえず英語圏だけの問題になりましたがフェアユースを引っ込めているわけではなくグーグル自体はまだ取り込みをやめていないはずです。

今後のデジタル化に伴う利用の原則を確立することを求められています。

8.著作権

8.1. 著作権法の改正

「著作権法の一部を改正する法律」が、2009年6月19日に公布され、2010年1月から施行されました(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/21_houkaisei.html)。今回の改正は、(1)インターネットを活用した著作物利用の円滑化、(2)違法な著作物の流通抑止、(3)障害者の情報利用の機会の確保を柱としています。

(1)に関しては、国立国会図書館における資料納入直後からの電子化や、インターネット販売での美術品の画像の掲載、検索エンジンによるコンテンツ複製、情報解析研究のための複製などにおいて、権利者の許諾が必要でなくなったこと、(2)に関しては、違法配信による音楽・映像の私的複写の違法化、海賊版DVDなどのネットオークションへの出品の規制がなされたこと、(3)に関しては、視覚障害者向け録音図書の作成が可能な施設が拡大されたこと、聴覚障害者のための映画や放送番組への字幕や手話の付与に許諾が必要でなくなったことなどが挙げられます。

2010年1月からの施行に対応した動きとして、「改正著作権法での図書館の視覚障害者サービスのガイドラインの公表(2010年2月18日)」があります(http://www.jla.or.jp/20100218.html)。このガイドラインは、著作物の複製、譲渡、自動公衆送信についての指針が示されており、国公私立大学図書館協力委員会、全国学校図書館協議会、全国公共図書館協議会、専門図書館協議会、日本図書館協会の6団体により発表されています。

一方、視覚障害者のための複製については、日本図書館協会(http://www.jla.or.jp/kenkai/20091211a.html)専門図書館協議会(http://www.jsla.or.jp/pdf/public_comm_091215.pdf)[PDF:104KB]から、「著作権法施行令の一部を改正する政令案」への意見として、複製が認められる図書館の範囲を、病院の図書館や美術館、博物館へも拡大する必要性が訴えられております。

8.2. 著作権に関連した動き

(1)「 日本版フェアユース」についてのワーキングチーム報告書

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会では、著作物の公正な利用であると判断されるフェアユースについての「権利制限の一般規定」に関するワーキングチームを2009 年9月に設置し、2010年1月20日にワーキングチームの報告書が提出されました(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_07/gijiyoshi.html)

報告書の内容については賛否両論があり、日本文藝家協会、日本写真著作権協会、日本書籍出版協会、日本雑誌協会、学術著作権協会、日本新聞協会の6団体からは、小委員会あてに「権利制限の一般規定」の導入に反対する内容の意見書が提出されています(http://www.pressnet.or.jp/info/seimei/

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iken20100120.pdf)[PDF:180KB]。

(2) 政府系ネット情報の収集に関する国立国会図書館法の改正

国立国会図書館法の一部を改正する法律が、2009年7月10日に公布され、2010年4月1日から施行されています。この法律は国、地方公共団体、独立行政法人、国立大学法人などの機関が発信しているインターネット情報を国立国会図書館において複製して収集を可能とするものです(http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/internet_data.html)

私立大学など対象となっていない機関のインターネット情報については、国立国会図書館法のインターネット情報選択的蓄積事業(WARP)により、引き続き許諾を得て収集・蓄積・提供するとのことです。

(3) 学協会著作権ポリシー(SCPJ)データベースがリニューアル

国内学協会の機関リポジトリに対する論文掲載許諾状況を参照するための標記データベースが、2010年4月1日にリニューアルとなり、検索やブラウズ、統計の機能が強化されたとのことです(http://scpj.tulips.tsukuba.ac.jp/)

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