葉サイズの制御

葉サイズの制御を理解するには?

葉の大きさがどう決まるかを理解するには、それを制御する遺伝子を見つける必要があります。シンプルに考えると、野生型に比べて葉が大きかったり、小さかったりする突然変異かぶを見つければ良さそうです。図はそのような変異株をたくさん見つけてきたものです。真ん中の緑色のものが野生株の葉です。

葉サイズの制御を理解するには?

葉は細胞の集まりなので、葉の大きさが変わるということは、細胞の性質も変わっていると考えられます。細胞の大きさが大きくなる、変化しない、小さくなる場合と、細胞の数が増える、変化しない、減るの組み合わせで、色々な変異株が考えられます。実際の解析例を以下に紹介します。

angustifolia3 は細胞が少ない

 angustifolia3 (an3) 変異株は、葉原基での細胞増殖活性が低下細い葉を作る突然変異株です。angustifoliaというのはラテン語で「細い葉」というそのものズバリの名前です。an3変異株では細胞数が野生株の約30%にまで減少しているのに対し、細胞サイズは1.5倍に大型化していました(ピンク色で示したのが1つの細胞です)。このような現象を補償作用と呼びます。このような現象は、ant, er, fugu, swp, smpといった様々な突然変異株でも観察されています。補償作用は葉の大きさがどのようにして決められるのかを理解するために重要な現象と考えていますが、謎の多い現象です。詳しくは論文を読んでみてください。

細胞数とサイズの関係

AN3の機能を徐々に弱くすると、細胞が数がそれに応じて少なくなっていきます(緑のグラフ)。一方、細胞サイズは、細胞数が約50%以下にまで減少しないと大きくなりません。オレンジのグラフの#9までは細胞サイズは正常ですが、#139以降は大きくなります。なぜ、細胞大幅に減少した時だけ補償作用がかかるのかも謎です。詳しくは、論文をどうぞ。

細胞間の情報伝達?

細胞は分裂をやめてから急速に大きくなります。補償作用は細胞数が少なくなることが引き金となって、細胞伸長が促進されます。そのため、増殖中の細胞と伸長中の細胞で情報のやり取りがある可能性が出てきます。それを調べるにはクローン解析という実験が有効です。図の左の葉っぱはan3の一部を野生型の性質に戻しものです。野生型に戻った部分は、右側で緑色に光って見える部分です。このような葉をキメラ葉と呼ぶことにします。左側の葉っぱの全体を写した写真の、左側半分よりも右側の方が「ふっくら」と大きくなっているのがわかるでしょうか?これは、右半分で、細胞増殖が回復したためです。キメラ葉のan3のままの細胞と野生型に戻った細胞(四角で囲んだ部分)を比べたのが次の写真です。

an3細胞からのシグナル?

Bの写真は野生型、Cはan3そのもの、Dはキメラ葉でan3のまま、Eはキメラ葉で野生型の性質に戻した部分を見たものです。C, D, Eはほとんど同じ大きさであることがわかります。つまり、キメラ葉の野生型に戻したはずの部分(ここでは、細胞増殖が回復していました)は、補償作用がかかりっぱなしと考えれられます。この結果は、an3型の細胞から、細胞を大きくするようなシグナルが出ていると考えるとうまく説明できます。そのシグナルもいまだに謎に包まれています。詳しくは、論文をどうぞ。

細胞だけ減る変異株1

色々な変異株を見ていると、似たような表現型を示すものが目につきます。写真のgdp1変異株はそのような例で、野生型に比べ、尖った形の葉を作ります。このような形態の変異株は数多く知られていて、大抵の場合、リボソームタンパク質やリボソームを作るために働くタンパク質の遺伝子に変異を持ちます。調べてみると、GDP1もリボソーム合成に関わるタンパク質でした。この変異株では、細胞は減るのですが補償作用はかかりません。しかし、補償作用を示すan3との2重変異株にすると細胞はさらに減り、細胞サイズはさらに大きくなります(細胞の写真を見比べてください)。これと同様の表現型を示すリボソーム関連変異株を過去に報告しています。これらのことから、リボソームに関係した何らかの仕組みが補償作用と接点を持つと考えています。

細胞だけ減る変異株2

gdp1は葉の形も変わってしまう変異株でしたが、野生型と同じように丸い葉っぱで小型の変異株がoli1です。oli1oligocellula1 (少ない細胞)という意味の変異株です。研究を進めoli1とそっくりなhda9, pwrという変異株を見つけました。これらの変異株を掛け合わせて、2重、3重変異株を作りました。もっと小さくなると思いきや、葉のサイズはそれ以上小さくなりませんでした。このような変異株同士の関係から、OLI1, HDA9, PWRはチームとして働き、どれか1つ欠けてもチーム全体の働きが失われることが予想されます。例えば、スマホの液晶が粉々になったり、バッテリーが壊れたり、基盤が壊れたりすると、スマホとしての機能が果たせませんよね?これら3つ(やその他大勢の部品)が集まって「スマホ」という機能を発揮していることを考えると、理解しやすい現象です。

どんなチーム?

では、OLI1, PWR, HDA9はどんなチームを組んでいるのでしょうか?さらに研究を進めると、野生型のOLI1, HDA9, PWR遺伝子がつくるタンパク質は1つに集まって働く(タンパク質複合体と言います)ことがわかりました。このタンパク質複合体は、遺伝子の転写を抑制する働きがあると考えています。このうちどれか1つでも壊れると、遺伝子の発現が抑制されず、葉が小さくなると考えられます。この仮定が正しければ、抑制されている遺伝子は葉を小さくする役割を持つと予想できます。現在、そのような遺伝子を探しているところです。

大きな葉を作る変異株

小さい変異株ばかり紹介してきましたが、大きくなるものもあります。grandifolia-D (gra-D)はラテン語で大きな葉っぱという意味の変異株です。最後のDは優性 (dominant)という意味です。この変異株は変り種で、4番染色体(Chr. 4)の一部が増えています(重複と言います)。図の水色で示したグラフは、染色体の端から端まで、それぞれの位置に存在する遺伝子数(普通は2倍体だから2個)が、右側の領域で増えていることがわかります。ゲノム全体を解析する方法が発展したおかげで、全体像が簡単にわかるようになりました。重複した部分には1000個もの遺伝子があるのですが、このうちの幾つかが葉を大きくする表現型に関係していることがわかっています。