研究概要

Molecule of the Month © David S. Goodsell and RCSB PDB licensed under CC 表示 4.0 国際

葉のでき方:はじめに細胞を増やす

 葉の発生は、茎頂分裂組織の周辺に葉原基が生じることで始まります。初期の葉原基は全体に渡って活発に細胞分裂をしています。葉原基の成長が進むと、細胞分裂はその基部のみで起こるようになります。一方、分裂が盛んな領域から外れた細胞は分化を開始します。図の紫と緑の枠で囲った部分は、盛んに増殖している細胞と分化を始めた細胞の集団を示しています。葉における細胞増殖はある期間しか持続しません。これは葉に特有の仕組みで、茎や根がその先端部に頂端分裂組織を保持し、その無限増殖できる能力によって形作られるのとは非常に対照的です。

葉のでき方:表裏を作る

葉を作る際に、ただ細胞が増えて大きくなるだけでは、「葉っぱ」らしい姿にはなりません。葉っぱは平べったい構造をしていますが、そのような形になるには「軸」が大事です。縦、横、奥行きの3次元的な軸です。葉の表と裏を使うには「向背軸」という葉の平面に垂直な軸が非常に大事です。黒い背景の写真に写っている植物は野生型のシロイヌナズナです。その隣にある、いかにも異常な植物は、葉の表裏が異常になった突然変異体です。この変異株では、葉の表側がうまく作れず、裏側だけになった状態の葉(針みたいに細いは)がたくさん生じていることがわかります。面白いことに、このような突然変異株を使って、このような形態異常の原因を調べていくと、タンパク質の合成装置であるリボソームの異常がヒントになることがわかってきました。さらに詳しくは、「リボソームと発生」のコーナーに書いてあります。

葉のでき方:色々な細胞を作る

 分化の過程では、様々な形態の細胞が作られます。写真は表皮のペーブメントセル(紫)、孔辺細胞(緑)、柵状組織の葉肉細胞(右側)です。分化の過程では多くの細胞が非常に大型化します。 最終的な細胞サイズは、 増殖中の細胞と比較すると、数百倍から数千倍にも達します。このような発生パターンは生育環境が同一であればどの個体でも同じように観察されることから、葉を構成する細胞の数と大きさを制御するような発生プログラムが存在すると考えられています。それでは、1枚の葉を作るのに必要な細胞数や個々の細胞のサイズはどのようにして決まっているのでしょうか?また、それらは葉そのもののサイズとどのような関係があるのでしょうか?「葉サイズ」のコーナーにさらに詳しいことが書いてあります。

植物細胞の模式図

植物には2重の膜で囲まれた細胞小器官(オルガネラ)が2種類あります。プラスチド(葉緑体はプラスチドが光合成できるように発達したものです)とミトコンドリアです。これに加え、核にそれぞれ独自のゲノム DNAが収納されています。それぞれのゲノムには遺伝子があり、転写、翻訳されて機能します。核で転写されてできるmRNAは、細胞質にあるリボソームで翻訳されます。一方、プラスチド、ミトコンドリアにはそれぞれに専用のリボソームが存在します。

リボソームの構成要素

リボソームは細胞の中で最も複雑なタンパク質複合体です。しかもRNAも含んでいます。大小のサブユニットが1つずつ集まって翻訳というタンパク質を合成する反応を行います。真核型のリボソームの場合、約80種のタンパク質(リボソームタンパク質)、4種類のrRNAが集まってできます。また、リボソームの合成に関わるタンパク質は200種類以上あると考えられており、その過程はとても複雑です。リボソームを作る工場に相当するのが、核の内部にある核小体です。写真の青色の部分は核内部のDNAです。緑色の部分はリボソーム合成に必要なタンパク質にGFPをつなげて光らせたものです。核の内側に核小体があることがわかります。GFPとは緑色蛍光タンパク質のことで、緑色に光らせて観察することができます。リボソームの作り方についてはもう少し詳しく「リボソームと発生」のコーナーに書いています。

側根のでき方

根の先端部には根端分裂組織と呼ばれる部分があります。ここで細胞が増えることで根が長く伸びていきます。根は枝分かれで複雑になっていきますが、枝分かれした根を側根と呼びます。側根は親の根の内鞘と呼ばれる組織の細胞が盛んに分裂して作られます。根端分裂組織には、静止中心と呼ばれる分裂をあまりやらない細胞があります。静止中心の周りには、根が伸び続ける間細胞を継続的に生み出せる特別な細胞(幹細胞)が配置されます。側根形成の過程では、静止中心や幹細胞を新しく、しかも正しい配置で作り直す様子が容易に観察されます。そのため、植物の分裂組織の働きや幹細胞の再生の仕組みを理解するために、とても便利です。図は静止中心で働く遺伝子が、形成中の側根で発現する様子をGFPで観察したものです。最近、側根形成の際にもリボソームが何らかの形で関与することがわかってきました。詳しくは「側根形成」のコーナーで。

境目のでき方

よく「常識を疑え!」といわれますが、常識すぎて意識しないことが色々とあります。植物は、地上部(専門的にはシュートと呼びます)と地下部(根です)があるので、当然その境目があります。境目は必然的にできるのか、それとも何らかの仕組みがあって積極的に作るのかが気になります。しかし、これもきっかけがあって初めて『?』と思うものなのです。そのきっかけは「地上部・地下部境界」のコーナーで。