OPT受講生の声(vol.8 特別編)2025.9.8記
名古屋市立大学大学院理学研究科・教授
木村 幸太郎
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OPT実習を大学院の講義に活用~その意図と実現まで~
私は農芸化学科という生化学の総本山のような所で学位を取得し、流れ流れて2000年頃からイメージングに関わった研究をしています。具体的には世界で初めての遺伝子コード型カルシウムセンサーであるCameleon (Miyawaki et al., Nature 1997) を宮脇敦史先生から直接分与していただいて、線虫C. elegansの神経活動をイメージングしたのが始まりです。それからずっと見様見真似でやってきました。NAとか収差とかいう専門用語をなんとなくネットで調べながら、です。
そのうちにラボを持ち、今では「高速三次元イメージング」とか「マルチカラーイメージング」とかキラキラした言葉を自分の論文とか紹介記事で使っています。「木村さんと言えばイメージングだよね」とか言ってくださるような方もいらっしゃるような状況になってきました。しかし、とりあえず定年まで「次のポジション」を考えなくて良い状況になり、何をすべきかを整理した際に、「自分の飯のタネである顕微鏡に関して、まずは自分がきちんと理解し、そして学生にきちんと理解させなければいけないのではないか?」という結論に至りました(もちろん他にもやるべきことは幾つかありますが)。周りを見渡せば、先端的な顕微鏡を使っている同僚は何人も居ますが、顕微鏡のことが正しく理解できている院生はもちろん教員はほとんど居ません。
そこで、中学生レベルの参考書を探し、大学院レベルの教科書にも目を通し、自分でゼロから1単位分の講義を作り、大学院で教え始めました。この講義は受講者には大変好評だったものの、顕微鏡の「中身」を直接触るような経験ができず、全くもって「かゆい所に手が届かない」という感じでした。ネットで探した1万円くらいのそれっぽい光学キットは全然役に立ちませんでした。
そんな折、たしか2022年の分子生物学会の会場だったと思いますが、Thorlabsの知り合いから「亀井先生がそういう講習会やってますよ」と奇跡的に聞きつけ、会場で亀井先生をつかまえ、趣旨を説明し、強引に説得した末、「きちんと理解した人が増えてくれるのは我々の趣旨に適うので、木村先生自身がOPTのトレーニングを受けたら、名市大での講義で我々のキットを使ってくれても構わない」という非常にありがたいお言葉をいただきました。そして、基生研で講義および実習を受けさせていただき、翌年から亀井先生および実習指導者の方々に名市大までお越しいただき、講義および実習を行っていただいています。中身は他の方が記述してくださっていますので繰り返すことはしませんが、いまだに学ぶことばかりです。この実習がなかったら、と思うとぞっとします。
私は大学教員ですので、研究成果を出すことも重要ですが、やはり学生に原理原則を理解してもらうことが何よりも重要であると考えています。世の中がどんなに発展しても技術の根源たる「基礎」の重要さが変わることはありません。しかし、「基礎」を理解するには時間が掛かります。したがって、「基礎を理解してもらうこと」こそが大学での教育が果たすべき役割と考えています。本実習は、顕微鏡を日常的に利用するすべての研究者が受講すべき基礎的な内容を含んでおり、受講すればそれがきちんと理解できます。ますます多くの多くの方々が本実習を受講され、正しくそして限界まで顕微鏡を利用されることを願って止みません。
世話人(亀井)追記:あれは20年近く前の分子生物学会、若き日の木村さん(私も若かったですけど)のポスターを見ました。線虫でCameleonを使ったFRET-Ca2+イメージングデータを議論したことを今でも覚えています。あの頃は私も木村さんもポスドクだったかな?今振り返れば、私はイメージングが分かってなかったと思いますが、お互い様ですね(笑)。そして、20年後の同じ学会で、今度は私の方が声を掛けられてイメージングの実習について木村さんから熱く語られました。「それじゃぁまずはご自身で受講して学んで下さい」と言いましたが、OPT2022は確か分子生物学会の翌週だった気がします。すでに受講生が決まっていたので、割り込みはできないのでスタッフのような顔をしてオンライン受講してくださいと言った気がします。2月には基生研での組み立て実習を追加で開催して、そこに参加して頂いたのでしたね。その後、翌2023年度から授業科目に入れたスピード感はさすがです。研究所の若手にも大学での講義の機会を頂けて感謝しています。今後ともよろしくお願いします。
(研究者は一生勉強なんだと思う今日この頃です。)