OPTサテライト(OPT九州2024伊都)を主催して

 先日2024年9月に、九州大学伊都キャンパスにおいて、九州地区初のOPTを開催いたしました。OPTサテライトを主催するにあたり、約1年かけて準備を進め、ようやく本開催の日を迎えることができました。

 私は九州大学大学院農学研究院研究教育支援センターで光学顕微鏡の共同利用と利用者支援に従事しています。10年程前に共焦点・超解像顕微鏡を担当して以来、イメージング支援を仕事にしてきました。思い返せば顕微鏡を初めて担当した頃、私はまず機器の操作手順を覚えて、利用される方の機器操作のサポートをしていました。しかし、支援に携わっていくうちに、顕微鏡の原理についての自分の理解が十分でないと感じるようになりました。その都度、教科書を読んで勉強しましたが、難解に感じる箇所が多く、しっかりと理解することができていませんでした。

 なぜすぐに理解できなかったのか。今でこそ言えるのですが、当時は最も基本的な原理である“光の性質”の理解が不足していたために、顕微鏡の原理を調べてもただ暗記をすることしかできなかったのだと思います。当時の私は、顕微鏡担当者という立場でありながら、「ただ機器を操作できているだけで、原理に基づいた的確な撮像支援をおこなえていないのではないか・・・。」と、焦りを感じるようになっていました。そんな時期に、岡崎市にある基礎生物学研究所で開催されるOPTについて知り、私は2021-2022年に受講生としてOPTに参加させていただきました。

 初めて参加したOPTの実習は非常に内容が濃く、イメージング支援に携わる者が有しておくべき多くの知見を学びました。しかし、残念ながら私は、実習の理解目標とされていた事項を初回の実習期間中に十分に習得できませんでした。レンズによる結像の仕組みやそれを示す光路図の理解に苦戦し、勉強不足を実感しながら帰途についたことを思い出します。ところが2023年8月に、OPTを企画・運営されている基礎生物学研究所の亀井保博先生より九州大学でのOPTサテライト開催の可能性についてお話をいただくことになりました。そして、上司と相談の結果、2024年1月に当センターでプレ開催を実施することが決まりました。プレ開催は、今後開催予定のOPTサテライトの運営に関わる技術職員の方々を受講生として迎え、私を含む実習スタッフの習熟を目的にしておこなうことになりました。

 実はサテライト開催を引き受けた際、開催場所とスタッフ提供の協力のみを考えており、実習も“お手伝い”することを想定していました。それ以上は自分には無理だと思っていたからです。しかし、亀井先生から「実習の進行を担当して自ら説明や解説を行い、その過程で奥川さん自身の理解をさらに深めて欲しい。お手伝いではなく、是非自分で主催できるようになってください。教える側になる事は、自らの理解をさらに深める機会です。」との激励をいただきました。OPT実習の受講経験から、その目標レベルを考えると大きな不安がありましたが、「とにかくまず1回やってみよう!2回目、3回目と実施していきながら、少しずつ実習のレベルを上げていこう!」と考えるに至り、プレ開催で実習の進行を担当することを決意し、開催に向けての本格的な準備に取り掛かりました。

 プレ開催までの準備期間は、約5か月でした。まず、2023年11月に基礎生物学研究所で開催されたOPTに再度参加しました。この時は実習スタッフ(TA)として、つまり教える側の立場で参加し、実習がどのように進められるのか、受講生がつまずく部分はどこか、それをどのようにフォローするのか等、スタッフの意識を学びました。また、OPTのオンデマンド講義を再度視聴して、開催責任者に求められる基礎知識の習得にできる限り努めました。

 さらに、基礎生物学研究所技術職員 斎田美佐子様、高木知世様にオンラインでの打ち合わせをお願いして、実習内容の不明点を相談し、当日の進行のコツや受講生に理解してもらうための工夫とその準備に関するアドバイスを頂きました。進行・説明用スライド資料も共有していただき、OPT開催経験が豊富なお二方からのサポートは大変心強いものとなりました。

 並行して、実習機材を数週間お借りできたので、納得できるまで組立練習を行いました。組立前に各部品の仕様や形状をしっかりと確認したことで作業手順の理解が非常に深まりました。1人での組立練習は、生じた不明点をじっくりと一つ一つ解決しながら進められるというメリットがありました。関連するオンデマンド講義を再確認したり、参考資料を調べたり、方眼紙と定規を使い手書きで光路図を描いて組立時に必要な公式や原理を確認したり、光学シミュレーターで作成した光線を実機と対応させたりしました。最後まで全て組み立て終えた時には“分からないこと”が明確になり、次第に不安が減っていくのを感じました。

 そして後日、共に開催準備を進めていた九州大学の技術職員 高見重美様と、実機組立の合同練習会を行いました。各自1台の機材を組み立てていき、理解が不十分な点を申告しては相互に解説していくスタイルで、事前の個人練習の際に疑問点の解決に役立った参考資料をその場で互いに紹介しました。合同練習会は共に理解を深められただけでなく、受講生への説明練習の場にもなりました。さらに、難解に感じるポイントがほぼ同じ箇所であることに気づけたため、受講生に対してより丁寧な説明が求められる項目の把握と共有ができました(後日、これらの情報を元に、進行・説明用スライドの改訂案を作成しました)。

 このような準備の後に、プレ開催(写真①)を行いましたが、プレ開催の実施中にも不明点をいくつも解決できました。

 実習当日は講師として、亀井先生と、OISTのイメージング施設責任者の甲本真也先生に参加していただき、解説の補足、受講生の質問への回答補助、日頃使用している顕微鏡との関連性についての説明等をしていただきました。このような手厚いサポートにより、初めてのサテライト開催ではありましたが実習レベルを下げることなく開催することができました。


 OPTサテライトを主催するための準備は簡単ではありませんでしたが、関係者の皆様に多くのご協力をいただき、9月の本開催では受講生の方々に喜んでいただける実習となったと感じています(写真②)。研究者に顕微鏡の理解を深める機会を提供するだけでなく、イメージング施設で支援を担当する技術職員間の学内外での連携を強化し、また全国規模の支援に直接貢献でき、そして何よりイメージング支援者としての技術研鑽の機会となりました。

 OPTは実習を重ねる度に新しい学びが生まれ、常に進化し続けている実習です。説明用スライドは講師の方々のアドバイスのもと、OPTを担当した各施設の技術職員によってより分かりやすく、より理解しやすい内容へと改訂され続けています。この進行・説明用スライドは、OPT講師の方々の執筆で刊行された「正しい結果を得るためのイメージング&画像解析実践テキスト」と共に、これから全国各地で開催責任者を担当される方にとって心強い資料となるものと思います。


 サテライト開催者としてのこの経験談が、OPT開催を検討されている全国の施設の方々にとって参考になれば幸いです。私のように最初は原理を理解できずに苦労していた者でも、OPTサテライトを主催することができました。今後もOPT開催を通じて、技術職員間の連携を強めていければ大変嬉しく思います。

 最後になりましたが、九州大学でのOPT開催にあたりご協力いただきました関係者の皆様方に心より感謝申し上げます。

2024.9.24執筆

九州大学大学院 農学研究院研究教育支援センター

生物資源環境科学部門 技術室 生命科学ユニット

技術専門職員 奥川友紀