2025.11.2
anent は古英語の「…と同じ(平面)で、…と並んで」などを意味する on ef(e)n, on emn に遡る前置詞で、「(古風な表現、またスコットランド方言で)…について」、「(古風な表現、方言で)…の真向かいに;…と並んで」を意味する。歴史的には他にも「...に面して」、「...の間近に」、「...と並んで」、「...といっしょに」、「...に反して」など多様な意味を担っており、詳細は hellog~英語史ブログ「#4321. あまり知られていない前置詞 anent (= about) を紹介」で説明されている。
古英語の語形 on ef(e)n, on emn から見て取れるように、efen の /v/(古英語では有声音も主に <f> で綴られていた)と /n/ の間の母音が落ち、/v/ が後続する /n/ に部分的に同化して /m/ となった異形が見られた。OED の語形欄を見る限りでは語中の /v/ または /m/ の /n/ への同化、あるいは消失は初期中英語から見られるようだ。
中英語期になると、古英語期にはなかった語末に非語源的な -t が付加された anent, onevent の語形が用いられるようになる。『英語語源辞典』によると語末の -t がついた原因は不詳であるが、-t は12世紀末に付くようになり、一説では次の語につく定冠詞 the の異分析と想定している。同様の変化として「79. againとagainst ―<g>の綴りと発音、-stの語尾について―」、「142. amidst ―非語源的な添え字-t―」が挙げられる。また、中英語期には他にも様々な異形が見られ、一つには anend(e) のように -t に対して -d が添えられたものもあった。こちらも -d がついた原因は明らかでないが、OED は end との連想が -d の語形を後押しした可能性を挙げている。さらに、anentes のように、属格を表す語尾 -s がついた副詞や前置詞にちなんで -es のついた語形も見られた。
参考文献
「Anent, Prep.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Anent, Prep. & Adv.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/anent_prep?tab=etymology. Accessed 2 November 2025.
“Even, Adj. (1) & N. (2)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/even_adj1?tab=etymology. Accessed 2 November 2025.
キーワード:[assimilation] [metanalysis] [analogy]