2025.7.28
again と against は同語源から派生した語である。again の古英語での語形は onġēan、onġēn で、on と「…の方向に」を意味する -ġeġn から成り、 -ġeġn はゲルマン祖語の *ȝaȝina-、*ȝaȝana- に遡る。<g> の上に点をつけた <ġ> は、古英語で前母音(字)の前の <g> が硬口蓋摩擦音の /j/ の発音に対応することを表す(実際の古英語の写本に <ġ> の表記が見られる訳ではない)。そのため、中英語では ayen などの綴字が見られた(実際には多くの綴字のヴァリエーションがあり、OED には中英語期の語形だけでも100を超える綴字が挙げられている)が、現代英語では <g> の綴字で軟口蓋閉鎖音の /g/ と発音されている。『英語語源辞典』によるとこの -g- の綴字と発音は古ノルド語の影響を受けた北部方言の型を示している。
against は元は again に副詞を作る語尾 -s を付けたもので、中英語では ayen(e)s などの語形が見られた。『英語語源辞典』や『英語語源ハンドブック』によると語末の -t は① 最上級の -st と混同されたための添え字、② against に後続して使われた the との融合(agains þe → agains te → against(e) þe)、③ amidst (=amid)、amongst (=among)、betwixt (=between)との類推によるものである可能性が挙げられている。『英語語源辞典』によると -st の語形の最初の例は1300年頃の Layamon による Brut の Otho 写本に現れ、1400年以後ロンドン方言の英語では広く使用され、16世紀半ばには文語として確立した。
最後に again と against の意味変化と使い分けについて述べておく。両語とも古英語から見られるが、again は古英語期には「もとへ;逆戻りして」の意味であった。そこから again は1200年以前頃から「再び」の意味になったのに対し、against は「…に逆らって」などゲルマン祖語の「…に向かって、対して」の本来の意味をよりよく保っている(『英語語源辞典ハンドブック』pp. 7–8)。また、『英語語源辞典』によると again は古英語では onġēġn-cuman (現代英語にすると again-come) のように分離接頭辞だったが、次第に独立して副詞あるいは前置詞の用法が生じた。1130年頃にはイングランド南部で属格の ayenes、againes が同義に用いられ、前置詞としては against の語形が上述の通り15世紀以前に現れていた。したがって、again は古英語(・中英語)では副詞と前置詞の両方で用いられたが、16世紀初期には現代と同じく副詞としては again、前置詞としては against を用いるという用法が確立した。ただし、『英語語源辞典』によると、北部方言では again の前置詞としての用法が16世紀以降にも見られるという。
参考文献
「Again, Adv. & Prep.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Against, Prep. & Conj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Again, Adv., Prep., & Conj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/again_adv?tab=forms&tl=true#87838002. Accessed 28 July 2025.
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。
キーワード:[Germanic] [Old Norse] [metanalysis] [analogy]