2025.10.27
現在は古語となっている anchor (2)「隠者」は前回の anchor (1)「錨」と同音異義語であるが、その語源は異なる。『英語語源辞典』によると、後期ラテン語の anachōrēta「隠者」から古アイルランド語で anchara となり、それが借用されて古英語では ancor, ancra の語形となった。
OED によると、古英語では第1音節の母音が短母音のものに加え、aancora など長母音を示すと思われる語形が見られる。これは ān「1つの」との類推によるものの可能性があり、隠者の孤独な生活との連想に基づいているという。また、古英語では現代英語と異なり <c> の綴字が用いられたが、OED によると中英語期から <ch> を含む綴字が見られる。これはラテン語の anachōrēta を参照した語源的綴字と考えられるだろう。
現代では「隠者」を表す語としては anchor よりも anchorite の方が主に用いられているようだが、『英語語源辞典』によると16世紀に古英語の ancra から発達した ancre に代わって anchorite が一般化した。anchorite は anchor と同じく後期ラテン語の anachōrēta を語源に持ち、それが変形した中世ラテン語の anachōrīta から中英語期に借用されたものである。ラテン語からさらに語源を辿ると後期ギリシャ語(200–600年頃)の anakhōrētḗs「俗世から隠遁した人」、古典ギリシャ語の anakhōreîn「退く」に遡る。anakhōreîn はギリシャ語で「逆に」などを意味する接頭辞 ana- と「別の人のために空間を作る」を意味する khōreîn から成り、後期ラテン語・中世ラテン語でも ana- の語形となっているが、OED によると anchor (2) に倣って an- になったという。
参考文献
「Anchor (2), [N.]」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Anchorite, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Anchor, N. (2)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/anchor_n2?tab=etymology. Accessed 27 October 2025.
“Anchorite, N. & Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/anchorite_n?tab=etymology. Accessed 27 October 2025.
キーワード:[etymological spelling] [analogy] [homonymy] [Latin] [Greek] [/k/]