2025.10.26
anchor は「錨」の意味で古英語から用いられ、1380年頃から「頼みの綱」、1934年から「リレーの最終走者」の意味でも用いられている。主な中英語の語形は anker、古英語は ancor で、ラテン語の ancora から借用された。『英語語源辞典』によるとラテン語の ancora を通じて「錨」を表す語がヨーロッパ諸語に取り入れられたが、航海用語としてはゲルマン諸語における唯一のラテン語借入語かもしれないという。ラテン語の ancora はギリシャ語で「錨」を表す ágkūra から借用したもので、「...を曲げる、…にくぼみを付ける」を意味する ágkos、さらに印欧祖語で「...を曲げる」を意味する *ank- に遡る。同じ印欧祖語に遡る語には、angle「角度」、angle「魚釣りをする」、ラテン語の uncus「かぎ、釣り針」がある。
現代英語の anchor は <ch> の綴字だが、上述の通りラテン語の ancora は <c> で、ギリシャ語の ágkūra では <k> で綴られている。他の同根語を見ても、ドイツ語の Anker、フランス語の ancre、アイルランド(・ゲール)語の ingor、古(教会)スラヴ語の ankura と <ch> の綴字が標準となっている語は見当たらない。『英語語源辞典』によると英語の anchor はラテン語の異形 anchora を模倣したもので、16世紀から見られる。16世紀のルネサンス期にラテン語の綴字を参照して <c> から <ch> へ変化させた点では一種の語源的綴字と考えられるが、<c> と <ch> のどちらの綴字もラテン語の2つの異形 ancora と anchora に沿っている点では一方のラテン語の綴字から他方のラテン語の異綴りに乗り換えただけとも言える。
参考文献
「Anchor (1), N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[etymological spelling] [Latin] [Greek] [Indo-European] [/k/]