井上研究室では、一人一人違う研究テーマを、はじめから、教員と一緒に考えていくことになります。どの学生にも卒業までには自身の制御理論を作り上げてもらいたいです。以下にもう少し詳しい指導方針や狙い,卒業までに研究室のメンバーに期待することをまとめました。
井上研究室では、全く世の中にないものを生み出すこと、将来起こり得る課題を発見し解決策を提示すること、そして、誰もがわかる形でこれらへの貢献をまとめることを最大の使命としています。特にシステム制御工学分野では、既存の理論を学び過去の知識を得ることは前提として、全く新規の理論を自ら生み出し遠い未来へ貢献することまでも強く求められます。このような創造力とでもいうべき、全く新しい考え方を自ら想像して後に残る形としてまとめる能力こそを、高めてもらうことが研究室の一番の狙いです。福澤先生の自我作古(我より古(いにしえ)を作(な)す )の考えに近いものがあると思っています。
上の大目標のもとで、具体的にはフィードバック制御に関する研究に取り組んでいます。複雑な実システムの中にフィードバック機構を見出し、抽象化し、解析し、さらに新たな制御機構を提案していきます。具体的なテーマはこちらにまとめています。これまでの研究成果をみるのも研究の雰囲気を理解するのに役立つでしょう。交通や電力のネットワークを含む都市インフラや航空管制から農業など従来は制御問題とは認識されていなかったシステムで、制御問題を定式化し解決策を提案することに特に興味をもっています。生物の振る舞いから政治の仕組みまで、どんなシステムにもフィードバック制御は含まれているでしょうから、なんでも研究の対象となると考えています。
( 2019年追記,3年生向け)よく質問されますがコアタイムはありません。好きなときに好きなだけ自分のために研究してもらいたいと考えています。井上としては、必要以上にアルバイトで他人のために自らの時間を捧げることは推奨しません。寝ても起きても“研究”に100%時間を使ってもらいたいです。“研究”の捉え方は様々ですが、どう捉えても必ず大きな財産を得られます。多数の論文を読み続ければ手持ちのツールが増えて問題解決能力が高まるでしょうし、研究のアイデア出しを続ければ創造力(面白い仕事を生み出せる能力)が高まるでしょう。コアタイムがないために、時間の使い方次第で将来10年後,20年後に大きな差がでる研究室だと思います。
学生は1)週1回井上と個別ミーティング、2)月1回メンバー全員への進捗報告、3)不定期で共同研究者との合同ミーティングをおこないます。1では、軽くざっくばらんなアイデア出しから、定理の証明のような重たい議論までをおこないます。研究の過程である、将来を想像し、課題を抽出し、具体化し、解決していく訓練になるでしょう。2では、1で得られた知見や研究成果の欠片を集めて、文章としてまとめ、他のメンバーに説明してもらいます。研究に直接関わらない相手を説明の対象とすることで、研究成果に客観性をもたせつつ、抽象的なアイデアを具体的かつ正しく説明する訓練にもなるでしょう。3では、分野の専門家へ我々の成果を紹介しつつコメントを頂く機会になります。自分のオリジナリティを大事にしつつ、専門家の意見を適切に取り入れうことで本当に面白い研究を目指します。
研究の進捗状況や完成度によっては、学会での口頭・ポスター発表から、雑誌論文への投稿までをおこないます。特に修士課程の学生には少なくとも一度は国際会議で発表してもらいたいです。海外で開催される会議で口頭発表をする経験をしてもらう予定です(IEEE系やIFAC系など,たとえば,2023年度の修士2年生は4名全員が国際会議発表しています。ハワイ2名,サンディエゴ1名,ヒューストン1名でした)
ところで、研究室での目標や身につけたい/身につけるべき能力として、たびたび、文章執筆やプレゼンテーション能力が挙げられます。これらは(少なくとも)理工系研究室の第一の目標であるとは全く思いません。これらの能力は副次的に得られるものであって、真剣に研究活動に取り組むことで自然に身につくことでしょう。
下の図に勉強と研究をフィードバック制御問題としてまとめて比較してみました。我々自身が制御対象 P で、ある分野の知識・技術を得ることは制御器 K を高度化することに対応します。(強引な解釈もあります…)
学部3年生までの勉強(や大学入試)は、制御系設計問題です。各科目の担当者がある程度明確に目標 r を設定しており、そこへの到達が求められます。試験や演習が課されることで、我々は目標 r と現在の理解度 y の差分をもとに知識をえて制御器 K を高度化し、科目への理解度を目標状態に近づけることができます。
一方で、研究室配属後の研究は、目標値設計問題です。曖昧な状態にある背景から課題を抽出し、達成するべき目標として明確化することが研究において最も重要な最初のステップになります。もし目標が不明確なままでは、どんなにやる気があってどんなに知識を得ても何も生み出すことはできないでしょう。目標がわからないときは、目標値を0とした現状維持が最適戦略でしょうからやる気もなくなってしまいます。逆に目標さえ明確に設定できれば、3年生までの勉強の相手が教科書から高度な論文に変わる程度で、同じように学習を進めることができることでしょう。(もちろんこのステップも非常に苦労することになりますが)