私たちは,車・ロボット・航空機のような電気機械系から,交通・電力・航空などインフラ系,さらには疾病から人の感性そして個人/集団の意思決定まで様々なシステムを望ましい状態に誘導する「制御」の問題に取り組んでいます。これらのシステムへの制御方法を開発する工学的な研究だけでなく,制御に必要な原理を解き明かす科学的な研究まで私たちの対象となります。メンバーの興味関心にあわせて研究対象を選んで,新しい問題の開拓から新しい解決策まで取り組みます。
制御と聞くと自動運転のように完全に機械がすべて動かしてくれる自動制御システムを連想するかもしれません。しかし,私たちの研究対象は自動制御システムに限りません。むしろ,アシスト運転のように積極的に人がシステムの運転に関与する環境を想定しています。そして,人と機械が協働することで自動制御では実現できないより高いレベルで安全性・快適性・持続性を追求できる,真に人のためのシステムを構築することを目指しています。そのために,特に,機械から人へどのようなアクションが可能であるか,人を機械からどのように理解するか,2つの方向で研究をおこなっています。
システムの安全性を保ちながらユーザやオペレータの快適性・持続性を高めることを狙いとして,機械から人へどのようなアクションが可能であるか,その効果をどのように計るのか,そして系統的な設計はどうするのか,の問いに答えていきます。私たちが特に期待しているものは人へ弱く行動変容を促す「ナッジ」という考え方です。たとえば,視覚的な刺激やアナウンス文の違いによる行動変容を促す間接的な制御が可能となります。たとえば,自動車ドライバーへ歩行者の存在やその危険度を視覚的に訴えることで回避行動を促したり,トンネル内でペースメーカライトを走らせることで無意識での速度低下を防ぐといった問題に制御学のアプローチで取り組んでいます。また「インセンティブ」として金銭など報酬を与えることで個人/集団の行動変容を促す制御論の研究にも取り組んでいます。こちらは電力系統における需要制御や交通網における渋滞緩和への応用可能な技術です。
関連研究の最近の成果は以下のとおりです。
R.Asanaka and M. Inoue, Gig Work Systems Design for Dynamic Work Management with Freelancers, Proceedings of the 2023 IEEE International Conference on Systems, Man, and Cybernetics (SMC), 2023 (link)
M. Takeda, M. Inoue, X. Fang, Y. Minami, and J. M. Maestre, Light guidance control of human: Driver modeling, control system design, and VR experiment, Proceedings of the 4th IFAC Workshop on Cyber Physical and Human Systems (CPHS), 2022 (link)
R. Asanaka, M. Inoue, T. Homma, and K. Sawada, Incentive and nudge design for human behavioral change, SICE Journal of Control, Measurement, and System Integration, 2023 (link)
M. Inoue, M. Takeda, J. M. Maestre, Benchmark problem for visual nudge: Light-guided control of human-driven vehicles, in Control Systems Benchmarks, 2025 (link)
機械から人へ適切なアクションをおこなうためには,人の状態,特に行動に直接は現れない人の意図や優先傾向を理解することが不可欠です。私たちはたとえば車載のカメラ画像から歩行者の視線や動きを定量化し「システムから人への信頼度」に変えて,運転アシストの際の安全性向上に役立てています。より能動的に人からのフィードバックを集めて人の理解を進める研究もおこなっています。たとえば「チャット」や「アンケート」など非構造化データを自然言語処理の技術を適用することで,システムユーザの意図や優先傾向を推定することができます。推定された意図などから制御システムの仕様を再設計することで,よりユーザ個人に合わせた(パーソナライズされた)システムを実現できるようになります。
関連研究の最近の成果は以下のとおりです。
Y. Miyaoka, M. Inoue, T. Nii, ChatMPC: Natural language based MPC personalization, Proceedings of the 2024 American Control Conference (ACC), 2024 (link, arXiv).
Y. Miyaoka, M. Inoue, K. Urata, and S. Harada, Chat-driven interface for virtual network reallocation, Proceedings of the 2025 IEEE International Conference on Communications (ICC), 2025 (NTT共同研究)
S. Ejaz and M. Inoue, Trust-aware safe control for autonomous navigation: Estimation of system-to-human trust for trust-adaptive control barrier functions, IEEE Transactions on Control Systems Technology, 2025 (link, arXiv).
T. Nii and M. Inoue, Personalized control system via reinforcement learning: Maximizing utility based on user ratings, SICE Journal of Control, Measurement, and System Integration, 2023 (link, 2024年度論文賞).
T. Nii and M, Inoue, Personalization of control systems by policy update with improving user trust, IEEE Control Systems Letters, 2022 (link).