鈴村美月:Model-embedded Control for Large-scale Network Systems(修士論文)の一部より
近年,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが大量導入されつつあります。再生可能エネルギーの発電出力は気象条件に依存して変化します。国土全域に広がる大規模ネットワークである電力系統において,どこかで発電出力が変動すると,電力系統全域にその影響が伝播し周波数が変動します。周波数変動によって工業製品の品質が劣化したり停電したりするため,周波数変動を抑制しなければなりません。このように,電力系統において再生可能エネルギーは外乱としてふるまうのです。
そこで本研究室では,外乱抑制制御に取り組んでいます。外乱抑制といっても,本研究では電力系統の全体的なの外乱抑制ではなく,局所的な外乱抑制により外乱を空間的に局在化します。あるエリアには外乱が入ってこないようにしたり,あるエリアから外乱が出ていかないようにしたりすることで,外乱の空間的な伝播抑制をめざします。
大学の授業では,1つの制御システムに対して1つの制御器を付加する理論が一般的です。電力系統のような大規模システムに対して1つの制御器を設計すると,大規模で複雑な制御器を設計しなければなりません。そこで本研究では,1つの電力系統に対して複数の制御器を付加し,エリアごとに制御します。このような制御を分散制御といいます。一般に,分散制御ではシステム全体の安定性を保証することは難しいとされています。本研究では,この難しさに取り組み,外乱の空間的な伝播抑制を達成する分散安定化制御器の設計を提案します。
吉村翔:Hierarchical Approach to Large-Scale Systems: Power Systems Modeling and Air Traffic Control(修士論文)の一部より
近年,特にアジア地域の経済成長に伴う航空需要の増加から,2030年には航空交通量が現在のおよそ2倍になると予想されています。航空交通量の増加は,管制官の負担の増加へとつながります。従来の管制システムでは,空域ごとに管制官が手動で経路を設計し,パイロットに指示を出しています。管制官の負担の軽減のため,航空機を出発から到着まで一括管理し,経路を自動生成することが将来の管制システムには求められています。
本研究室では,経路の自動設計に加えて,新しい枠組みの経路計画と運用の方法の開発に取り組んでいます。従来の経路計画においては,管制が経路を完全に決定しています。ここで,管制が経路設計による制御目的は,航空機の安全性の確保と空港の利用効率の向上です。我々は管制の目的を達成する経路には自由度が残っていることに着目し,管制がパイロットに提示する経路を点ではなく領域で与える方法を提案します。管制の目的を達成しつつ,(限られた範囲の中で)パイロットも個々に目的を達成するよう経路を最適化できることを狙いとしています。
大規模システムを一つの制御器で制御を行なうことは,計算量や通信量の観点から実現することが難しいという問題があります。この問題への解決策の一つに,階層分散制御というものがあります。我々が提案する航空機群の経路計画法は,階層分散制御に基づくものだと捉えることができます。管制が自由度を残して航空機群の経路計画を行なう層,パイロットが提示された領域内で経路の最適化を行なう層の二層から成る階層分散制御と言えます。従来は一つの制御器(管制)で行っていた制御(経路計画)を,階層分散制御で行なう点が本研究の新しさです。