第2回蘭医学サロン 開催レポ―ト
2025年(令和7年)8月3日、福井市のアオッサ・県民ホールで「第2回 蘭学サミット・蘭医学サロン」『笠原良策丸かじり・福井が生んだ医の巨人』が開催されました。今回の第2回蘭医学サロンは、福井県主催の「蘭学サミット」との共催となりました。映画「雪の花」製作委員会(株式会社木下グループ・松竹株式会社ほか)、株式会社PHP研究所(月刊誌『歴史街道』)が協力に名を連ね、福井県立大学が後援として加わり、FBCアドサービスの全面的な協力の下で実施されました。事前申し込み制で、主催の発表によれば600人が申し込み、500人が来場し、会場は日曜日の朝にもかかわらず多数の人でにぎわいました。
今回は、福井県庁主催の「蘭学サミット」と蘭医学サロン主催の「蘭医学サロン」の共催という形をとり、題材として笠原良策にスポットを当てました。第1部の「蘭学サミット」では今年1月に封切りされた映画「雪の花 ともに在りて」の上映会の後、小泉堯史監督の映画制作の裏話などをお聞きする鼎談を、第2部の「蘭医学サロン」では笠原良策の業績と人となりを、歴史学的な観点と医学的な観点の双方から見つめ、牛痘を広めるために人生を賭けた笠原良策という人物を、歴史的、学術的、エンタメ的に「丸かじり」するという形式を採りました。
午前10時15分、第一部の「蘭学サミット」がフリーアナウンサーの阿部真由美アナの軽やかな司会で始まりました。福井県交流文化部長の西川聡氏の挨拶に続き、第一部、映画『雪の花 -ともに在りて-』が上映されました。吉村昭の同名小説を映画化したもので、舞台は江戸末期の福井藩、数年ごとに猛威を振るい、数多の命を奪った疫病に立ち向かい、人々を救おうと奔走した実在の町医者・笠原良策(松坂桃李)の生きざまを描いた作品です。会場設営のスタッフの努力もあり、音響も素晴らしく、心打つ物語を堪能しました。
上映後の舞台には、名匠小泉堯史監督、医師で作家の海堂尊氏、元福井県文書館副館長の柳沢芙美子氏による鼎談が行われ、良策の人物像とその魅力について語り合いました。海堂氏は映画を「美しい映画」と称え、柳沢氏は「一度目は職業柄、厳しい目で見てしまうが、二度三度と重ねるごとに、見えなかったものが現れ、感動の形が変わっていく」と語りました。小泉監督は「こういう人に出会いたいと思う人を映画にする」と述べ、本作が最後の作品のようなことを話しましたが、客席からは「もう一本を」と願う盛大な拍手が起きたのが印象的でした。是非、もう一本撮って欲しいと思うのは客席にいた人たちだけではないでしょう。そして、誰を撮るのか、興味がつきません。
午後の第二部の「蘭医学サロン」は『笠原良策、徹底解剖』と題した講演会とシンポジウムが開催されました。講演会のイントロダクションとして、海堂氏が「蘭医学サロンって何だろう?」と題し、自身の小説取材を通じて出会った郷土史家や専門家との交流がいかに刺激的であり、その豊かな知識を歴史愛好家と分かち合う場として本サロンを立ち上げた経緯を語りました。
続いての講演では、福井県文書館主任の長野栄俊氏は、①除痘館誓約書を読み解く、②藩医と町医・村医の違い、③良策と父の関係、の3点について文献を織り込みながら分かりやすく解説しました。また、山村修教授は医学的見地から種痘の技術的側面、除痘館での種痘マニュアル確立の意義、そして良策が持っていた実業家としての顔について語りました。
最後のシンポジウムでは、阿部アナと海堂氏が舵をとり、壇上には橋本左内や橘曙覧を研究する福井県立大学客員教授・角鹿尚計氏が加わり、笠原良策の国学や和歌の素養と、その方面での彼の背景となった福井の国学の状況を提示した後、長野栄俊氏、山村修氏らとともに、笠原良策という人物の輪郭を、多方面にわたる業績や逸話を織り込んだ「四方山話」に興じました。登壇者の議論によって、笠原良策は種痘だけのヒトではなく、橘曙覧との交流があり和歌を詠んだり、医学校の設立を試みたりという、多面的な才子であったということで見解は一致しました。また、福井で最初に種痘した「仮除痘館」の場所が特定されていないことに話題が及び、客席にいた福井市郷土博物館の山田学芸員にコメントを求める場面もありました。海堂氏はこのようなシンポジウムをきっかけに新たな史料がでてくればと呼びかけました。それはまさに「サロン」の醍醐味でした。最後に、角鹿氏が好きな良策の和歌として「たとへわれ いのちしぬとも死まじき 人はしなさぬ 道ひらきせむ」を紹介してシンポジウムは終わりとなりました。
この後、第3回「蘭医学サロン」の開催地となる津山洋学資料館の館長・小島徹氏が登壇し、津山市と福井市がいずれも結城秀康の治世を仰いだという歴史の縁を語りました。さらに津山の地に息づく蘭学ゆかりの宇田川家、箕作家の名を紹介し、来年十月、津山市への来訪を期待して幕を閉じました。
真夏の福井で、150年前の医師の志を多くの市民と共有することができた一日となりました。
当日のFBCニュースと、翌日の福井新聞、福井県広報番組・朝だよ!ハピネスふくいで、盛況だった第二回「蘭学サミット」&「蘭医学サロン」の様子が報道されました。
(文責:法木左近)