電子地図や走行環境認識技術に関する研究

リーンな電子地図の研究

近年,様々な目的から自動車の知能化の研究が進められている.想定される実運用のシナリオによって自動運転や高度運転支援技術等の様々な形態が想定されているが,近年の知能化自動車では人間ドライバと同様に自動車自体が走行環境を認識する必要がある.しかし,車載センサによる走行環境認識には限界があり,また過度に高性能なセンサの車載はコストの面においても課題が存在する.そのため,電子地図に記載された情報を車載センサによるセンシング結果と等価な情報であると考え,電子地図を疑似的なロングレンジセンサとして扱う考え方が登場した.例えば,車載センサによって車両前方に一時停止線が存在する事を認識する事と,電子地図によって車両前方に一時停止線が存在する事を知る事は等価である,という考え方である.この様な考え方の基で,知能化自動車の研究において電子地図は重要な役割を占める様になった.

モビリティ向けの電子地図を考える上では,以下の三点が大きな課題となる.

  1. どの様なデータ構造の電子地図が車両制御の観点から望ましいか?

  2. どの様に電子地図のコンテンツを作成するか?

  3. どの様に電子地図上における自己位置を推定するか?

自律移動ロボット等の分野ではSLAMと呼ばれる自己位置推定と地図作成を同時に行う手法が提案されており,それを自動車に活用する事も提案されている.しかし,走行領域が限定されているサービスカーの場合は問題にはならないが,走行領域が限定されていないオーナーカーの場合は自律移動ロボットと同じ手法を活用する事が難しい.そこで,我々の研究グループでは,2000年代中盤に提案された電子地図規格を自動運転向けに拡張し,「LeanMAP」という新しい電子地図を提案した.具体的には,地図データの車載の観点や車両制御の観点から電子地図のデータ構造を提案した.また,地図データ構築のリソースを低減するために,実際の車両の走行データを基にしたデータ駆動型の手法によって,カーナビレベルの地図データを自動運転用の準高精度地図に進化させる手法も提案した.そして,この様な電子地図を活用するために,車載センサによるランドマーク検出と地図データとの照合による自己位置推定手法を提案した.

我々が提案した新しい地図規格は,車載のためにそのデータ容量が少ないという利点だけではなく,それを運用する車両に搭載されるセンサの要求水準も下げるという利点も持っている.また,地図データ整備のリソースも相対的に少ないという利点も有している.そのため,現在の自動車開発の延長線に存在する技術として,一般道向けのオーナーカーでの自動運転や高度運転支援の実現に貢献すると考えられる.

関連論文

Takuma Ito, Masahiro Mio, Kyoichi Tohriyama, and Minoru Kamata, "Novel Map Platform based on Primitive Elements of Traffic Environments for Automated Driving Technologies", International Journal of Automotive Engineering, 7(4), pp. 143-151, doi:10.20485/jsaeijae.7.4_143.

Takuma Ito, Satoshi Nakamura, Kyoichi Tohriyama, and Minoru Kamata, "Data-based Modification System of LeanMAP Contents for Automated Driving", International Journal of Automotive Engineering, 9(3), pp. 115-123, doi:10.20485/jsaeijae.9.3_115.

Takuma Ito, Satoshi Nakamura, Kyoichi Tohriyama, and Minoru Kamata, "Deepening method for LeanMAP content based on a virtual trajectory by lateral transcription", Mechanical Engineering Journal, 6(3), doi:10.1299/mej.18-00558.

自己位置推定のためのランドマーク検出技術の研究

 電子地図上での自己位置を推定する手法は,その電子地図のデータ形式によって大別される.例えば,SLAMやVSLAM等の手法では,センサで観測される特徴点を基に電子地図が構築されるため,地図に記載された特徴点とリアルタイムに観測される特徴点をマッチングする手法が採られる.一方で,我々が提案するLeanMAPでは規格化された走行環境構成要素で地図が記述されるため,地図に記載されたランドマークとセンサによって検出されるランドマークとの照合によって自己位置推定が行われる.そのため,カメラやLIDAR等の車載センサでランドマークを検出する技術が必要となる.

我々の研究グループでは,少し将来の自家用車レベルの装備で一般道での自動運転や高度運転支援を実現する事を目指している.そのため,自己位置推定のためのランドマークは一般道に存在している必要があり,またそれなりの頻度で遭遇する必要がある.そのため,停止線や横断歩道,速度規制表示や横断歩道予告のひし形標示等を検出すべきランドマークとして定めた.また,都市部とは異なり,地方では道路整備に十分な予算が用意されていないため,摩耗等によってこれらのランドマークの一部が掠れてしまっている場合も存在する.この様な掠れた道路標示は既存研究によって提案されている手法ではうまく検出する事が出来ない.そこで,我々の研究グループでは地図情報をうまく活用し,道路標示の部分的な特徴の組み合わせに注目する事で,たとえ道路標示が掠れていたとしても検出出来る技術を新たに開発した.

stop_line_and_crosswalk.wmv

掠れた停止線や横断歩道の検出の様子

関連論文

Satoshi Nakamura, Takuma Ito, Toshiki Kinoshita, and Minoru Kamata, "Detection Technology of Road Marks Utilizing Combination of Partial Templates", International Journal of Automotive Engineering, 9(3), pp.105-114, doi:10.20485/jsaeijae.9.3_105.

Takuma Ito, Kyoichi Tohriyama, and Minoru Kamata, "Detection of Damaged Road Paints of Crosswalks by Focusing on Multi-layered Features", International Journal of Automotive Engineering, 10(4), pp. 356-364, doi: 10.20485/jsaeijae.10.4_356.

Takuma Ito, Kyoichi Tohriyama, and Minoru Kamata, "Detection of Damaged Stop Lines on Public Roads by Focusing on Piece Distribution of Paired Edges", International Journal of Intelligent Transportation Systems Research, doi: 10.1007/s13177-020-00220-7.