パーソナルモビリティ研究

その1

対向交通参加者の交通モード推定に基づくインタラクティブな衝突回避

 パーソナルモビリティは自動車等とは異なり歩道等の歩行空間での走行を前提としている.歩行空間では歩行者や車椅子利用者が共存し,条件付きではあるものの自転車利用者も共存する事が想定される.そのため,周囲の交通参加者と接触せずに移動する事が求められる.また,車道での自動車の走行とは異なり,歩行空間での移動には厳密な交通ルールは存在しない.自律移動ロボット等の関連分野では,周囲の交通参加者の位置や速度をセンシングし,必ず減速停止して衝突回避を制御アルゴリズムや,周囲の交通参加者の隙間を縫う様に減速せずに移動する制御アルゴリズム等が提案されている.しかし,パーソナルモビリティは自律移動ロボットとは異なり搭乗者が存在しており,周囲の交通参加者と調和しない移動の様態は搭乗者や周辺交通参加者から受容されない事がある.

 例えば,前者の必ず減速停止するアルゴリズムは常に周囲に”遠慮”をしている様な移動のあり方であり,搭乗者にも同様の心象を与えてしまう.またこの様な移動のあり方は交通流を停滞させやすく,その様な場合に搭乗者に迷惑をかけているという心象を抱かせてしまう可能性がある.そのため,この様な制御アルゴリズムでは外出意欲を損なう可能性がある.一方で,後者の減速せずに周辺交通参加者の間を縫う様に移動する制御アルゴリズムは,周辺交通参加者から危険な交通参加者としてとらえられ,周りから受容されず,結果として搭乗者がその様な移動を快く思わない可能性がある.この様に,移動の様相によっては搭乗者の外出意欲を損なう可能性があるため,歩行空間で他の交通参加者と調和して移動できるパーソナルモビリティの車両制御アルゴリズムが必要となる.

 そこで本研究では,パーソナルモビリティに搭載したカメラやレーザセンサを活用して正面を移動している交通参加者の交通モードを推定し,その推定結果に応じて衝突回避戦略を変化させる制御アルゴリズムを開発した.具体的には,車載カメラで取得した情報を画像処理する事で,対向交通参加者が歩行者・自転車利用者・車椅子利用者のいずれであるかを判別する.さらに,歩行者の場合にはレーザセンサで取得した時系列の情報から移動速度を推定し,若者の様に素早く移動する歩行者であるのか,又は高齢者の様にゆっくりと移動する歩行者であるのかを推定する.そして,これらの情報を基に対向交通参加者の交通モードを判断し,暗黙の社会通念に順ずる様な衝突回避を実現した.この様に周囲と調和した自律移動を実現する事によって搭乗者に周囲と対等な立場での社会参加を実感させる事で,精神的な健康維持の実現が期待される.

sis_ped_slow_ppt.wmv

ケース1:対向交通参加者がゆっくりと歩いている場合(高齢者と想定される場合)には自車両の方が運動性能が相対的に高いと考えられるため,自車両のヨー運動を制御し,積極的な対向回避を実行する.

sis_ped_fast_ppt.wmv

ケース2:対向交通参加者が素早く歩いている場合(若者と想定される場合)には自車両は出しゃばらずに,少し減速して相手に回避を促すことで消極的な対向回避を実行する.

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ケース3:対向交通参加者が自転車利用者である場合には自車両は出しゃばらずに,少し減速して相手に回避を促すことで消極的な対向回避を実行する.

sis_pwc_ppt.wmv

ケース4:対向交通参加者が車椅子利用者である場合には自車両の方が運動性能が相対的に高いと考えられるため,自車両のヨー運動を制御し,積極的な対向回避を実行する.

関連論文

Takuma, Ito, and Minoru Kamata. “Interactive Collision Avoidance Based on Surrounding Mobility Type for an Intelligent Powered Wheelchair.” International Journal of Advanced Robotic Systems, May 2013, doi:10.5772/56450.